不可思議

9/14
前へ
/14ページ
次へ
 不意に首にとても鈍い衝撃を感じた。  同時に、目玉が飛び出しそうな圧迫感を頭蓋から感じた。  穴の中に、なにか見える……。それに、周りは明るい?  俺はそう感じて、周りを眼球を動かして確認しようとした。  頭は動かせなかった。  少し先の方にガラス窓があり、しかしこの部屋も向こうの部屋も電気がほとんどついてなくて薄暗かった。  あれ?  俺は感覚の乖離に驚いた。  身体は身動きとれなかったが、はそこから動くことができた。  あ。  少し前進して、振り返ってみた。  縄に吊るされた自分が、白目を剥いて微かに揺れている。  ぁあ……? あ……。  首が体に引っ張られて二十センチほどに伸びていた。  俺は、死んだのか……?  恐らく幽体離脱したのだと解釈して、俺は死刑執行室を彷徨い始める。  不思議と、いや必然か。死への恐怖は薄れていた。  ところで、さっきからカチカチカチと微かに音がする。  いつからだろうか。  目が覚めた時には聞こえていただろうか。  いつの間にかからずっと聞こえている音が気になった。  音のする方へ向かうと、部屋に続く狭い廊下がある。  廊下は突き当たりで内側へ回り込む構造になっていた。  真っ暗だ。  カチカチカチ。  カチカチカチ。  カチカチカチ。  音が大きくなる。  俺は恐る恐る近づいた。  刑務官の服を着たような人が居る。三人ほどいるのか?  淡く赤色に発光するボタンが三つ見える。  顔が見えた。  そうだよな……。  あの三人だった。  小山だった。  岸辺だった。  新月だった。  死刑執行ボタンをこの世のものでない険しい形相で睨みつけながら。  執行してもなお押し続けている。  恨まれている。  俺は、許されないのだ。  彼らの目の前に立って頭を下げた。 「ごめん。本当にごめんなさい」  三人は険しい表情のまま死刑を執行し続ける。 「申し訳ない。俺が悪かった」  そう俺は謝罪した。  しかし、三人から反応は無い。  その代わりボタンを押す指を、腕を、大きく振りかぶっては下ろすようになってきた。  カチカチカチというリズムが、段々とカチ、カチ、カチというリズムに変わってゆき、やがて刑務官の制服の布が風を殴るザッ……ザッ……という音に変わっていった。  死んでも生きてても、逃さない。  そんな意思の塊が迫ってくるように見えて、俺は後ろにすすすと後ずさった。いつの間にか、ボタンのある部屋もボタンも、死刑執行室も無く、闇を背に受けている。  するとこの三人は、生き物でないようにすぅと、静かに距離を詰めてくる。  そうか……。そうだな。皆も死んでいるんだもんな。  俺は今更後悔と無力感に襲われて、項垂れた。  三人がひたすらに俺を指さす、ザッ……ザッ……という音に俺の正気は切り刻まれてゆく。  ごめんなさい。ごめんなさい……。  許して、いや、許さなくてもいい。  いや、叶うなら――。  ごめんなさい。  ごめんなさい。  ごめんなさい。  ごめんなさい。  ごめんなさい。  ごめん。  ごめん。  ごめん。  ごめん。  ごめん。  ご め
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加