エルと博士

3/7
前へ
/7ページ
次へ
 何日にも及ぶ取り調べのあと、私は解放された。しかし、あの家にはもう戻れない。やることも、ない。  困った私は、警察署に戻って相談をした。帰る家がない。やるべきタスクもない。この先どうやって彼の帰りを待てばよいのか、と。受付の女性はひどく混乱した顔をして、ほかの人を呼んだ。より立場が上の男性と話し合いになった。  椅子と机だけの個室はひどく殺風景だった。地域の困りごとを担当していた彼は、人員の足りなかった、街の子ども食堂のスタッフになってくれないかと私に提案してきた。 「エルさんは料理ができる。だからその腕を、どうか役立ててはくれないだろうか」  発明家博士の妻からだいぶ遠いところを提案された。この人には、私の高性能な脳を活かそうという考えはないようだった。私は代わりに提案する。 「私は料理以外のこともできます。研究のお手伝いだってなんだってできます。警察署でもきっとお役に立てます」 「そこをどうにか」  彼は切迫した表情で私を見つめている。人間の困っている顔だと脳が認識した。 「スタッフが数人一気にやめてしまって、このままでは続けることが危うい。困る子供たちが増えてしまう」  説得に対して黙っている私に、焦りの混じった声で彼は「そうだ」と条件を付け足した。 「簡単なものではあるが、住む場所も約束しよう。頼む」 「……それなら、そうします」  小さな私の返事に、それまで険しい顔だった彼は「ありがとう」と喜びをあらわにした。  私は人の役に立つロボットとして設計された。機能の一部分だけを使うというのはフル活用できていないということであり、その状態は宝の持ち腐れとも言える。それが私にとって懸念事項だった。  博士なら、それでもいいと言ってくれるだろう。人の役に立てるならそれでいい、と。そう信じて、私は部屋をあとにした。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加