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簡単な仕事だった。買い物をして、料理をする。一日の始めと終わりに話し合いをする。今までやっていたことと何ら変わりはない。その場所と相手が、あの家と博士から、食堂とスタッフに変わっただけだった。
スタッフはとても優しかった。私のことを深く聞かず、新しいスタッフとして仕事を手取り足取り教えてくれた。おかげで困ることはなかった。
しかし、街の人たちは私を快く受け入れてくれなかった。それは当たり前のことだ。私は、ニュースで大きく報道された、あの北尾容疑者の発明品だからだ。
街中を歩くだけで、「犯罪者」とからかわれたこともあった。石を投げられたこともあった。冷たい声や視線に耐え、平静を装いながらも、体の中には煮えたぎるものがあった。
それから、博士の名前はできるだけ出さないようにした。聞かれたときだけ、どうしてもというときだけ、そのときだけ彼の名を口にした。
与えられた木造賃貸アパートの二階で、一人博士のことを考えた。考えても、出てくるのは思い出ばかり。私は彼の今が知りたいのに。
図書館のパソコンで調べても馬鹿にするような記事しか出てこない。私のことを愛人、だなんて書いている記事もあった。馬鹿馬鹿しい。彼の私に向けてくれるものは、そんなものじゃない。他人の思惑がぐちゃぐちゃに混じった文章では、純粋な彼の気持ちを、考えを、知ることはできなかった。
しかし、簡単な仕事の中でただ一つ、とても難しい仕事があった。子供たちの相手をすることだ。
幼い彼らは言うことをほとんど聞いてくれない。髪は引っ張られるし、体をぺたぺた触られるし、勝手に出ていこうとするし、処理しきれなくて脳がオーバーヒートしてしまうこともあった。
一点、助かったことがあった。大人たちが犯罪者の作ったロボットに厳しい視線を向ける中、子供たちは違っていたのだ。好奇心の視線を向けてくれていたのだ。
人間でない私のことを、子供たちは偏見の目で見なかった。ほかの人間と同じ、新しいスタッフとして迎え入れてくれた。そのうえで、ほかのスタッフにするように、悩みを相談してくるようになった。
「エルちゃん、ここに王子様の絵を描いて!」
「ねーねー、エルちゃん。先輩のこと好きになっちゃったんだけど、どうしたらいいのかな……」
「ねぇエルちゃん、お父さんはいつになったら帰ってくると思う?」
投げかけられるものは実に多様で、答えの見つからない問いもあった。
それでも、投げ出すことは一度もしなかった。なんてったって私はあの博士のロボット。高性能な、人を助けることに特化したロボット。その悩みに、持ちうるすべてを総動員して向き合った。
「王子様の絵、ですね。イギリスのような感じでしょうか、それともアラブ?」
「恋愛相談ですか……告白、しちゃいます?」
「なにかありそうですね。詳しく聞かせていただいてもいいでしょうか」
子供たちの行動や悩みは予測不能で、どうしても持っている知識では対応できないものもあった。図書館に通って本を読み漁った。スタッフや子供たちの両親にどうしたらいいか相談した。得た知識と経験談を頭の中で組み合わせ、最適な答えを幼い相談者に伝えた。
食堂で本を読んでいると勉強熱心だね、と言われた。ありがとう、と子供たちから感謝された。次第に、大人たちの視線が温かなものに変わっていった。
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