エルと博士

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 やがて私は「子ども食堂の看板スタッフ・エルちゃん」ということで、食堂のスタッフの中でも人気の一人になっていった。  人間ではないから、珍しいから、ということではなく、一人のスタッフとしての成果が認められたからだ。食材を聞けば地域で一番安いスーパーが返ってくるし、余った食材で作ったことのない、しかし再現が簡単な一品を作ることができる。その上、子供たちの遊び相手にもなる。 「エルちゃん、ここをよろしくね」  私よりも前からいたベテランスタッフは、そう言って私の手を握った。水仕事で荒れた手だった。ハンドクリームを塗る必要のない私をうらやましいと言った彼女は、持病のために月末でここをやめることが決まっていた。  どこにも帰るところのない私は、ここにしか居場所がなかった。託された思いに、頷くことしかできなかった。  スタッフの手が離れる。人にしかないぬくもりが、ほんの少し私の手に残り、消えていく。 「明日も頑張りましょうね、エルちゃん」 「はい、頑張ります」  生きるために。生き抜くために。たとえ博士がそばにいなくても。  彼はきっと、私が生き伸びることを願っているはずだ。生き伸びて、いつの日か再会できることを願っているはずだ。  毎日の生活で忙殺されそうになりながらも、あのとき頭をなででくれた彼の顔を忘れることは一度もなかった。頭の片隅にある彼の笑顔が、倒れそうになる私をいつも支えてくれた。
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