温もり鈍痛かくれんぼ

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温もり鈍痛かくれんぼ

 天気予報になかった雨に打たれ、捨てられた猫のようにずぶ濡れ。新しく買ったばかりのカッターシャツはピッタリと肌に張りついて気持ち悪い。油断が招いた結果がこれ。歩くたびに浸食した感覚が伝わるのが最悪、学校から家まで微妙に遠いのがそれを長引かせているようで腹立たしい。  せっかく新しいメイクを試したのに落ちてしまう始末。もうさっさと風呂に入ってしまいたい。  扉は鈍重な気分と共鳴しているようで家に入るのを躊躇わせる。無意識の内に漏れた溜息を払うと、ようやくドアを開ける。 「うるさ」  玄関まで聞こえてくる喧騒。時計の針は夕方の六時を回った頃……いつも通りの日常。そんなに嫌なら離婚してしまえば楽になるはずなのに、どうしてそこまでして一緒にいるんだろ。子供の私がそんなことを挟めるはずもなく、ぐっちょりと雨を含んだ靴下を脱ぎながら陰鬱な気持ちになる。  いつもならこのまま風呂場に行くけど、こんな状況下でシャワーの音でも聞こえてきたら……アイツ等の矛先は私に向くに違いない。かと言って濡れた服をそのままにしても口うるさく怒られるのに決まっている。いつだって私に正しい選択なんてない。  もう一度、白い息が吐き出される。今の季節も相まって余計寒いけど……いいや、考えるのも面倒臭くなってきた。なるべく足音が出ないようにゆっくりと二階の自室へと向かう。自分の家なのになんでこんなに心が休まらないのか意味不明。 「まだ秋なのに……うわっ」  着るに堪えないシャツのボタンに手をかけようと思った矢先、ノックもされずに力強くドアが開けられる。 「おい、帰ってきてたのかよ」
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