温もり鈍痛かくれんぼ

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 寒かったはずなのに、すっかり暑い。両頬も口内も馬鹿みたいに血を孕んで熱を帯びる。ようやく立ち上がるとゴミ箱に不愉快の含んだ唾を吐き捨てる。空気に混ざった汗の臭い、雨に濡れた嫌味な匂い、濃厚な血液の香りが立ち込める部屋は私にとって慣れたもの。  行き場のない怒りを叩きつけるようにしてシャツを切り裂く。どうせもう着る予定もないのだから何をしたっていい、私の物だから好き勝手に処分していい。この気持ちをどうしたらいいの? 私に残された正しい選択はもうないの?  そんな思考を遮るようにして乱暴にドアが開かれる。 「アンタ帰ってたなら早くリビングに来なさい。アンタは家事もしないで遊んでばっかりで、ろくに勉強もできないのに……」  母親は私のことを見てすらいないのに、ぐちぐちとノイローゼのように同じ文句を唱え続ける。私の身に起こっている現実を一度たりとも認識しようとしないで、自分のことだけはこれでもかと語り腐る。再婚までして手に入れた生活が結局はこの地獄。この女にも問題があるのは見ての通り。  私の存在意義ってなんだろう? 誰からも必要とされない……必要とされたとしても、そこには理不尽な仕打ちだけが待っている。こんな場所にいる限り救世主は来ないし望みもしない、願ったところで無駄だと分かり切っているから。  心まで蝕まれ、居場所すらもない。そんな私に価値はあるのかな?  啜り泣き、か細く放たれる舌打ちが部屋に小さくこだまする。   *  学校は楽しいと思い込む。いつも通りすぎて退屈だけど、それでも家にいるよりはずっと良い。同じグループで固まって、興味のない噂話に花が咲く。それを愛想笑いでやり過ごしていると、いつの間にか放課後。  この後はアルバイトが待っているけど今日はサボりたい気分。時間潰しにはなるし、家に帰らないでいい口実にはなる……でもたまには発散しないと私だってどうにかなってしまう。いつも耐えて頑張っている自分にご褒美をあげてもバチは当たらないはず。
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