温もり鈍痛かくれんぼ

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「あっ、まだ居たのですね」 「先生」  放課後の教室で一人佇んでいるところ担任の眼鏡は不思議そうに視線を向けてくる。担任のくせにどこか気弱でいて不審、そのせいで他の生徒からも舐められて下に見られる始末。  勉強できることだけが取り柄の面白くない人間。どうせ真面目すぎるが故、学生時代もろくに遊んで来なかったんだと思う。だから年下相手でもビクビクして馬鹿みたい。 「帰らないのですか?」 「帰りたくない」 「そうですか。あっ、降り始めましたね。今日も雨が凄いみたいですし早く帰ってくださいね」  大粒の雨玉は絶え間なく注がれ、その音が耳障りで思わず眼鏡を睨み付ける。せっかく今から買い物でも行こうと思ったのに、コイツが来たせいで天候すらもどんよりに変わってしまった。気持ちを晴らそうと思った矢先にこれだ。 「そういえば家ではどうですか? 上手くいっていますか?」 「私の話……聞いてました? 家に帰りたくないんですよ」  その無神経な質問にイライラする。その感情を読み取ったのか薄ら笑いを浮かべてペコリと頭を下げる。悪そびれているような様子はなく、どこまでも他人を馬鹿にしているよう。 「家に帰りたくないとなれば困りましたね。流石にそれを聞いて一人にするわけにはいきませんし……」 「自分のことは自分で勝手にするんで放っておいてください」 「そんなこと言わないでください。そうですね……僕はもう帰りますし、雨が止むまで家に来ますか?」  下心があるようにも思える提案。でも先生の瞳はどこか真剣で、本気で私のことを心配してくれているようだった。母や兄と違って私のことをしっかりと認識してくれている。  どうせ元からバイトだってサボる気でいたし、眼鏡の家に行くなんて滅多にないレアな体験。退屈しのぎにぐらいにはなるはず。
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