温もり鈍痛かくれんぼ

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 私の求めていたのはこんなのじゃない。もっと素直に愛されて求められたかった。必要とされたかっただけなのに……。私の知っているこの人はもっと真面目でどこまでも優しい人だったのに、同じ人間とは思えないほどに冷酷。  先生が顔を覗き込んでくると、寒気が思考をも凍らせる。 「必要とされたいんですよね? いいですよ。でも僕と付き合っていくということはディプリンに満足させるということ。おや、お漏らしですか……まったく。早速お仕置きが必要なようですね」  視界が霞み、意識が白くふわふわする。  そうだ。私は何も知らないくせにこの人を好きになってしまった。命の華が枯れてしまう、そんな危機感だけが働いているけど私にはどうすることもできない。  愛する、愛されるってことは傷を付けるってこと? 痛みを与えるってこと?  この人の本性が私の中に翳りを作る。ここも私の居場所ではなかった? こんな愛情なら知らないほうがよかった。気弱な奴と思って見下したりするんじゃなかった。必要とされるように頑張ったのに、折檻な仕打ちが待っているなら頑張った私が馬鹿みたい。もう痛いのは嫌だ、優しくて甘くてそんな感情だけが知りたい。  私の存在意義って、価値って何? 選択はまた一つ閉ざされた。   * 「あいたたた……」  ようやく意識を取り戻したと思ったら、辺りは真っ暗で私は外にいた。どうも記憶がハッキリとしないけど、ここが自宅までの帰り道だということは分かった。  頭がズキズキと痛み、思わず触ってみると粘り気が指先に触れる。べっとりと纏わりつくように付着したのは間違いなく血だった。嗅いでみると、吐きそうになるほどのキツイ臭いが鼻いっぱいに広がる。  よく見てみると、私の体はどこもかしこも内出血しているようで鉛のように重い。鈍痛が縛り付け立ち上がるのもやっと。確かめるように唾を吐くと、血の塊も混じっていた。私の身に起きたこと何? 思い出そうとすれば破れた鼓膜から聞こえるノイズのような破裂音が邪魔をする。  ゆっくりと歩き出そうとすれば、ポケットが振動する。
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