エピローグ

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授業の鐘が鳴ったのと同時に私の原稿作業も終わりを迎えた。 終わった。終わった。 こんなに早く仕上げた私を私は褒めたい。 原稿作業なんてのはこんな1時間そこらで何ページも書くもんじゃないだろうに。 鬼教官唯に隣で睨まれながら書く小説は自分でも驚く程に筆が進んだ。いつもこのくらい集中出来れば苦労しないんだが。 私達は授業が終わったその足で大学から少し離れた所にあるファミレスに来ていた。 「上手い絵を書くには、日々の練習では限界があるわけよ。外に出て、自然を感じて、多くの人の話を聞いてインスピレーションを膨らませるわけ」 唯の力説をよそに、私はテーブルに届いた"満腹ポテト"を無心に口に放っていた。 「それでは、こちらのデータをご覧下さい」 そう言って持っていたタブレットの画面をこちらに見せてきた。 もうこの流れは何度も経験している。 「かの有名なイラストレーターのPITMAP(ピットマップ)さんは年に4回は旅行に行くらしいし、私の好きなジュランさんは行きつけのバーで毎日違う人と話すらしいのです。 ……つまりは!私に足りてないのはインプットなわけですよ!」 よくもまあこんなに綺麗にPowerPointの資料を作ってきたな。それもそのはず。唯がこんなに熱弁しているのには訳がある。 ひとつはPowerPointで資料を作るのは唯の勉強になるからだ。 唯は将来デザイナー志望らしいので、ポートフォリオの練習によく資料を作ってくる。クオリティは日に日に上がっていて今や色んな技を駆使して作ってくる。 そしてもうひとつはというと、 「そんで、肝心の言いたいことがまだ出てないんですけど?」 私がそう言うと唯は待ってましたとばかりの笑みで次のスライドに移った。 「という訳でですね!この夏休みを使って私達は山村合宿に向かおうと思います!」 PowerPointのド派手な演出とともに現れた文字は「山村合宿」の文字だった。 そう、唯は私にお願いをする時必ずこういう資料を作ってくるのだ。 過去にも、単発バイトの誘い、旅行の誘い、野外イベントの誘いや買い物の誘いまで、事ある毎に資料を使って私に付いてきてもらうように誘ってくる。 というかなんだそれは、「山村合宿」??聞いた事ないけど字面で分かる不穏な空気を感じ取った。 「え、山に泊まるの??何すんのよ、合宿免許取りに行くわけでもあるまいし」 「よくぞ聞いてくれました!リューナ先生!」 「だからそのリューナ先生ってのやめい」 私が制するのを遮るように唯はスライドを進めて山村合宿の説明に入った。 「ただの合宿じゃあありませんよ先生」 山村合宿の文字が消えて緑の生い茂った山々とバンガローのような小屋のイラストが現れ、同時に紙とペンのイラストも現れた。 「なんとこの合宿では短期間で作品をひとつ仕上げるという名目のもと集まった人間が、3週間同じ屋根の下で創作活動を行うとても素晴らしい合宿なのです!!」 ババーン!という効果音付きで紹介されたそれに私は多少なりとも驚いた。 「え、待って唯。まさかそれに行こうってんじゃあないでしょうね」 「安心してください。もう先生の分も申し込んでます。」 え……?聞き間違いか?? この子は今なんと言ったんだ? もう申し込んだ……?? 3週間?山の中?え?? 「お願い!!リューナイしかいないの!一人で行くのだけはやなの!お願い!」 全く状況を理解できない私は何の返事もせずただ唖然としていた。 貴重な夏休みを丸々山篭り?? 「え、ちょっとまっ……」 「お願い!お願い!お願い!お願い!お願いーーー!!」 唯は頭をこれでもかと机に擦り付け、ただお願いだけを連呼し続けた。私が質問する間もなく。 こんなやり方は卑怯だ。こいつには羞恥心というものが無いのか。店の中だぞ。 店内の視線がひとつまたひとつと集まってくる。 その羞恥心に耐えかねた私は、 「分かった。行くから、頭上げて」 と言ってしまった。 これが私の山村合宿(?)の始まりであった。
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