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追憶
――その昔、僕は大きな図書館に置かれていた。町一番の富豪が所持する、バロック様式の大きな図書館に。だけど、僕の所有者――即ち、僕のご主人さまは最初の数ページに目を通したきり、それ以降は一度も開かれることなく棚の隅にポツリと置かれたままで。
その後、歳月を経てご主人さまが幾度も代わり、その度僕はいろんなお家を転々としてきた。偉い学者さんの書斎だったり、綺麗な女の人のお部屋だったり、いろんな場所の、いろんな人の手に渡った。前のご主人さまのもとを去るのは寂しかったけど、同時に期待の気持ちもあって。次のご主人さまこそは、僕を理解してくれるんじゃないかって。
だけど……駄目だった。ほとんどご主人さまは数ページ――多くめくってくれる人でも2,30ページくらい目を通した後、再び僕を手に取ってくれることはほとんどなかった。そういうわけで、何の誇張もなく誰にも僕の言葉が届くことなく今に至るわけで。
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