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 友達の家に初めて行ったときは、驚いた。  今まで、普通だと思っていたことが普通でないことを思い知らされた。  友達の家には、当たり前のようにお母さんがいた。  そして、友達がチャイムを鳴らすと、「おかえり」と言って扉を開けていた。友達が「ただいま」と言わなくても、その声が聞こえていた。  私が、「お邪魔します」と言うと「いらっしゃい」と言ってくれた。それが、嬉しかった。自分の呼びかけに返事が返ってくることが、嬉しかった。  だから、私は、友達が羨ましかった。お母さんが家にいる友達が羨ましかった。  何度か友達に、「家に来たい」と言われることがあった。  それでも、私は呼ぶことが出来なかった。  お母さんが家にいないというと、みんな驚いていた。だから、家に呼ぶことなんて出来なかった。  さびしい気持ちに蓋をして、「ただいま」と言って家に入る。誰もいない家に入る。  そして、宿題をやりながら、祖父母や、おじ、おばが来るのを待っていた。それでも、「ただいま」とは言ってくれない。だから、私は「いらしゃいませ」と返すことしか出来なかった。  あの頃の私は、「おかえり」と言われることよりも、「おかえり」と言いたかったのかもしれない。ただ、「ただいま」という言葉を聞きたかったのかもしれない。
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