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 あの日から、もう二十年の月日が流れた。  あの日は、いつも夜遅くまで働いてくれていた両親に「おかえりなさい」を言いたくて夜更かしした日。  私は、この日を境に、「ただいま」と言わなくなった。  どうして、夜更かししようと思ったのか。そのはきっりととした理由は忘れてしまった。今となっては思い出すことも出来ない。  けれど、私が、起きている間に帰ってくることがほとんどなかった両親に、感謝の気持ちを伝えたかった。「おかえりなさい」と言ったら喜んでくれるのではないかと期待していた。その時の気持ちだけは、今もはっきり覚えている。  なぜ、あの日を選んだのか思い出せない。今となっては、分からない。  あの頃は、午後八時頃に就寝するように言われてその時間には、布団に入るようにしていた。  それは、その時の年齢を考えてもとても早い就寝時間だったんだと思う。  ただ、そのことに、不満をなんてなかった。毎朝四時半頃から、起きていたから、そのころには睡魔に襲われていた。  しかし、あの日は、眠い目を(こす)ったり、顔を(つね)ったり、しながら、九時半頃まで起きていた。けれど、「おかえりなさい」をいうことは叶わなかった。  両親は、九時頃に帰って来たけど、「ただいま」と言った声は聞こえなかった。  結局、計画は計画に終わり、私には枕を濡らすことしかできなかった。  私に、「ただいま」と言うように言った両親すらも言わなかったから、私は、言わないことを決めた。
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