序章

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第2話 『遼州圏』の独立と乱立する国家群  貧困と無知に慣らされてきた地球圏から移住を強制された『棄民』達は優越感を持って遼州の大地に次々と降り立った。『棄民』達は豊かな金鉱山を多く抱えるこの惑星を地球での差別のうっ憤を晴らすかのように原住民『リャオ』を奴隷化して酷使し、飽きれば楽しみの為に殺害してその征服欲を満足させた。  その惑星の金をはじめとするレアメタルの含有量は驚異的で、それはちょうど南米にたどり着いた征服者達がそれまでの王朝をすべて滅ぼして住民を奴隷化し、大量の金銀財宝を持ち帰った時代のそれにあまりに似ていた。  地球の支配者階層は地球での金の価値の急激な下落に不満を垂れながら、それでも多くの支配階級の官僚や支配階級達は『リャオ』を奴隷化して最低のコストで採掘を行い利益を得て成功者として地球圏に帰還してくる『棄民』達の姿を見て、宇宙開拓の成果を誇るばかりだった。  誰一人として奴隷化され殺されて行く『リャオ』に同情する地球人の指導者は現れなかった。今も昔も変わらずそれが政治家と言う職業人の性質と言うものだった。  地球の支配者階層は石斧と鑓しか持たない奴隷とされた『リャオ』達も新惑星に流れて一獲千金を夢見る『棄民』達の行動も制御可能だとして、地球にとどまり続けていた。  地球圏は21世紀の勢力争いに生き延びた国々地球圏の国々はある種の『妄想』に囚われていた。地球圏がそうであるように、地球外の知的生命体も軍事力で他者を支配しようとしていると考えた。『リャオ』の存在で地球外知的生命体の存在を確認した地球の国々はそれぞれに『宇宙軍』を強化し、地球圏外の脅威に備えた。  宇宙で地球圏は支配権を確立し、地球圏外の人々はその支配に喘ぎながら空を見上げ、自らの稼ぎを吸い上げていく地球を恨みながらため息をこぼすだけだった。  地球外に植民した人々は地球の権益争いの影響を受けながら独自の生活様式を作り上げていった。  中でもその『ゴールドラッシュ』の中心地である『遼州星系』は、開拓開始後十年も経つと独自の動きを見せ始めた。  『ゴールドラッシュ』に浮かれて流れて来た『棄民』達に対し、遼州星系の奴隷化された『リャオ』は『棄民』達に反旗を翻し、徹底したゲリラ戦で彼等に対抗することを開始したのだ。  ブービートラップ、スパイによる武器や艦船の強奪、人海戦術を駆使した断続的襲撃など、はじめは銃器で武装した『棄民』達は弓と石斧しか持たない原住民に対して優位を誇っていたが、『ゲリラ戦の天才』であった遼州の原住民たちはすぐに銃器を手に入れるどころか宇宙戦艦や戦闘機さえ手に入れて反攻に転じた。  さらに『棄民』達の原住民に対する非道な行いに憤懣を抱く『棄民』の一部は、原住民側に裏切り、戦いは一方的な虐殺から独立戦争へとその局面を変えつつあった。  そんな中、遼州圏『地球宇宙軍提督』田安高家中将はこの状況を憂うる数少ない地球人の一人だった。  地球圏で住むところを追われた人々をここ遼州系に招き入れ、この無謀にも見える『リャオ』の抵抗運動に同調して地球圏を裏切り、遼州圏の地球からの独立を宣言した。  徳川家の血を引く田安は太陽系の金星に当たる星である遼州圏第二惑星『甲武』で21世紀の2度にわたる極東核戦争で滅亡した日本国、当時の『アメリカ信託統治領日本』からの移民を受け入れた。彼は自分の理想とする日本の江戸以前の体制を復活させた『甲武国』を建国し、地球圏の悪影響免れるため国交を断絶した。  他にもドイツ系とフランス系の住民が居住する第四惑星で太陽系の火星に当たる『ゲルパルト』は国家社会主義体制を国是とする『ゲルパルト第四帝国』を建国した。  第五惑星以遠の惑星を支配する地球を追放同然に追い出された共産主義者のロシア系の地球人達は『外惑星社会主義共和国連邦』を建国し、社会主義体制の国家を再興した。  遼大陸の北部ではアメリカとロシア、そしてインドに分割された中国からの移民が『遼北人民共和国』を建国した。  同じく、遼大陸の西の砂漠の油田地帯には地球で人口が増えすぎたイスラム教国からの移民達が、イスラム教を国教とする『西モスレム首長国連邦』を建国した。  これら地球人の国に対してこの星の原住民である『リャオ』は遼大陸南部を支配する『遼帝国』を建国し、これとは別にこれまでの独立戦争の戦火から免れていた東の火山列島には『東和共和国』が『リャオ』の国として成立していた。彼等『リャオ』は言語を奪われていたので自らを遼州圏の公用語である日本語表記で『遼州人』と名乗るようになった。  遼州の地球人による復古主義国家と遼州人の支配する二つの国の成立により地球圏の遼州圏支配は終わりを告げた。地球圏に対し嫌悪の感情しか持たない遼州圏の国々は地球との国交を断絶し、地球との交わりを絶った。  唯一、最も外側の太陽系の冥王星に当たる北欧からの移民が建国したラップ共和国だけは地球圏との国交を保ち、遼州圏の国々の中では唯一地球圏と国交を持つ国として独自の姿勢を持つようになった。  こうして遼州圏は地球圏からの距離をとるようになっていった。
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