第八章 銃とかなめと模擬戦と

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第46話 最強の失敗機 「確かに……でも『先行試作』型ってことは、これをベースに量産がされるんですか?」  誠はそう言いながら隣の赤い機体と緑色の東和陸軍一般職の機体に目をやった。 「こいつは量産は……されねえんだ」  かなめは声のトーンを一段階落としてそう言った。 「05式の最大の特徴は……非常に『重装甲』だってところだ。『機動性』を『犠牲』にした結果、他の『シュツルム・パンツァー』には無い『重装甲』を実現した」 「重装甲……でも量産はされないんですよね?」  戦車が好きな誠にとって『重装甲』と言う言葉は胸が躍るものに感じられた。  かなめはめんどくさそうに話を続ける。 「そして、そのま腕部マニュピレーター……つまり『腕』だな。そこは結構器用で馬力があるから、かなりの火力の『重火器』が扱えるし、格闘戦の強さも売りの一つではある」 「それなのになんで量産されないんですか?」  誠が気になっていた先ほどのかなめの言葉を繰り返した。 「まあ、聞け。採用されているメインエンジンには、今、遼州系ではやりの『位相転移式エンジン』と言うものを導入している。こいつは『瞬発力命』が特徴のエンジンで、当然運動性もぴか一だ」 「でも量産されないんですよね」  誠はいいことづくめに聞こえるかなめの説明を少し違和感を感じながら聞いていた。 「そして、腰についた高温式大型軍刀(ぐんとう)、通称『ダンビラ』が装備されててかなり高度な格闘戦が出来る。つまり、その戦場に着きさえすれば、ガチンコ最強の死角なしのまさに、『タイマン最強兵器』ってことなんだが……」  そう言ってかなめは口を濁した。そしてそのまま長身の誠を見上げてため息をつく。 「なんですか?凄いじゃないですか!死角がないなんて!でも……量産はされないんですよね?」  そう言って喜ぶ誠だが、かなめは頭を掻きながらつぶやいた。 「なんだよ!量産、量産って!『運動性』は最高水準だが、『機動性』が……『致命的』に劣るんだよ!航続距離もメジャーな『シュツルム・パンツァー』の6割以下。大量導入なんて考える馬鹿な軍はどこもねえよ!戦場に着いたときは戦争が終わってるようなレベルの遅さなの!まあ、その原因は『位相転移式エンジン』のパワーの振り分けが間違ってるからそうなるんだけどな」  どうやら『05式』は相当の『珍兵器』であるとかなめは言いたいようだ。そう思うと自然と誠を見る目も冷ややかになる。 「まあ巡航速度が著しく劣るだけで、空も飛べるし……宇宙でもなんとか戦えるが……要するにこいつはオメーの好きな『タイガーⅠ』なんだ……あれも鉄道輸送できない場所に運べなかったからな……ソ連のT34みたいにあっちこっちに現れることが出来りゃあ戦況も変わったろうに」 「僕は戦車は好きですけどナチの戦車は嫌いです」 「なんだかわかんねえこだわりだな……まったく」  そう言ってかなめはランの専用機の隣の赤い機体の前に立った。 「これがアタシの機体だ」 「これも専用機ですか?」  誠の問いにかなめは静かに頷いた。 「アタシはこんな体だからな。直接、コードを通して脳に連結して操縦する方法がとれる。まあ……だから普通の軍隊には居られないんだけどな」 「普通の軍隊には居られない?」  かなめの言葉の意味が分からず誠は思わず聞き返した。 「戦争法規ぐらいは知ってるだろ?」  かなめはそう言って誠の顔をたれ目で覗き見た。 「ええまあ……捕虜の扱いとか核は使うなとか……ある奴ですよね」  正直、誠は法律の話は苦手だったのでお茶を濁す程度の知識で終わってくれることを望んでいた。 「その戦争法規でサイボーグは前線勤務が禁止されてるんだ。まあ、戦場が改造人間ばかりになったら人道的にどうかって話なんだろうけどな……」 「前線勤務が禁止されてるんですか?じゃあ、うちでも西園寺さんは後方支援とかしかできないんですか?」  誠は法律の話になってからはあまり集中してかなめの話を聞いてはいなかった。 「うちは純粋な意味での『軍隊』じゃねえからな。むしろ『警察』に近い組織だ。サイボーグの警察や治安組織での使用に制限はねえからな。だからうちならアタシは好きに暴れてもいい」  誠を見つめていたかなめの顔に薄気味悪い笑みが浮かぶ。 「でも……西園寺さんはここに来る前は……そうですよね、後方勤務ですよね。法律で禁止されているんですから」  とりあえずかなめの過去が少し気になっていた誠は笑いかけてくるかなめにそう言った。  急にかなめの顔から表情が消えた。 「知りてえか?アタシがここに来る前に何をしていたか……」  かなめの口調は重く、静かなものに変わっていた。  そこで誠はランの『詮索屋は嫌われる』と言う言葉を思い出した。 「いいですよ。言わなくても」  誠がそう言うとかなめはそのまま自分の機体に近づいていった。 「じゃあ言わねえよ」  そう言うとかなめは少し寂しげに笑った。誠はその乾いた笑いの意味が分からず彼女をどこか遠い存在に感じている自分だけを認識していた。
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