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「すごーい、今宮さん、家の中もやっぱりすごくきれい」
朝乃は、玄関に入るなり歓声を上げた。
「それはまあ、リフォームしたばかりだし」
「ううん、そうじゃなくて……ちゃんとしてるんです。物が全部、あるべきところにおさまってるって感じ」
「週末、うちでランチしません?」という私の誘いに、はじめ朝乃はけげんそうな顔をした。
「でも、子どもがいるから……」
「それは問題なし」私は笑った。「なんせお隣だし。ダメですか? 私も一人暮らしはちょっと心細いから、話のできる相手がほしくて」
結局、持ち寄りの食事会をするということになり、朝乃は亜理紗ちゃんを連れてやってきた。一応夫のことをたずねると、家でゲームをしているという。彼が妻や子どもとどういう関わり方をしているのか不明だが、高橋さんにならってそれ以上は踏み込まなかった。朝乃も大人なのだ。語りたいときがくれば、語るだろう。
もともと私の独身生活に興味を持っていたらしく、朝乃は目につくものを片っ端から褒めた。
「わあ、インテリアもすごくおしゃれ。カーテンも白くて素敵。ドラマみたい」
そう言って、丁寧な手つきで新調したばかりのダイニングテーブルをなでる。四隅がきりっと角張ったテーブルはシックだが、小さな子どものいる家庭には向かないだろう。
「まあ、生活の変化に合わせて買い替えていけばいいんじゃないかな。暮らしやすいのが一番ですし」
私の言葉に、朝乃はうなずいた。彼女からすれば、私の暮らしそのものが青い芝なのかもしれない。私たちはいつも、選ばなかった未来をつい考えてしまわずにはいられないのだ。
おっかなびっくりついてきた亜理紗ちゃんは、すぐにわが家に慣れたらしい。窓越しに芝生を見ると、「ママ見てー! きれい!」と目を輝かせて飛び出していった。
「あーちゃん、お庭はダメ。踏まないで!」
「いいの、大丈夫」
声を上げる朝乃を、私は制止した。
「近いうちに少し刈るつもりなんです。これまで、ちょっと伸ばし過ぎだったくらいなので。朝乃さんも、お昼が終わったら寝転んでみて。けっこう気持ちいいから」
「そうなの? ……じゃあ、そうさせてもらおうかな。実は、ずっとそうしてみたかったんです」
私と朝乃は、それぞれの料理をテーブルに並べた。陽光の中、芝生を軽々と踏んでいく亜理紗ちゃんの明るい声が聞こえてきた。
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