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長い黒髪は無造作に一つに纏められ、繕いだらけの着物から見える体は貧相で、とても『良家の子』とは言えない身なり。けれど、その顔にある大きな目だけはきらきらと光をたたえ彼を見る。
対称に、彼は背も高く日本人にはまだそぐわないスーツを完璧に着こなしていた。端正な顔つきはまるで彫刻のような出来栄えで、これを神が作り上げたのなら最高の傑作品と言っていいだろう。
「なんだお前は? この方は『那津』などという名前ではない、人違いだ。早く失せろ」
視線が絡まろうとする刹那、割り込んだのは彼の周りにいた警護の一人だ。
「……え? 那津、くん?」
「違うといっているだろう。この方は桐生亜貴様。お前のような貧乏人に知り合いなどいるはずもない」
「やめろ、上総。放っておけ」
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