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第1話 遠い昔の約束
「ぐずっ……嫌だ。……セレナ」
「泣かないでルーファ、王命に逆らうのは愚策だと思うわ」
「うぐっ……」
雨の降る薔薇庭園は、いつもよりも花の香りが濃い。土砂降りの雨のおかげで私たちはガゼボから動かずにいられた。
雨が上がってしまったら、私はこの子の手を離さなければならないのだから。
ずっと泣いていた幼馴染は、私の手をギュッと掴んで離さない。サラサラの金髪、空色の美しい瞳で、肌もすべすべで白いし、可愛くて、まるで天使のよう。
王命で私と第一王子との婚約が決まったことを知ったルシュファは私の屋敷に尋ねてきたのだ。
感情を隠すことなく、ボロボロと涙を流す姿に胸が痛む。
「ルーファ」
「でも……ぐずっ、婚約したら、もう……僕と一緒にいれないのでしょ?」
「そんなことないわ。婚約に当たって条件を出すの。王太子が結婚するのは運命の番だけ。私はその繋ぎ。だから期限が来たら婚約解消してもらうの」
「ふえ」
元々王命の婚約はオトナの事情があった。だから私は前世の知識を駆使して、いくつか条件を親に説得で押し通したのだ。幼い子供だからできる荒技だったけれど。
そもそも王太子は狼の亜人族で、番としか結婚しない種族だ。私が婚約するのは隣国の王女と婚約を阻止する政治的な理由に過ぎない。
前世の知識と記憶があるから、政略結婚の意図は理解できる。でも王妃なんてまったく興味はなかった。
「私だって窮屈で面倒事を押し付けられそうな王妃なんて嫌だわ」
「ほんとう?」
「うん。それに私の髪や目が悪魔っぽいっていう人たちは、キライだもの」
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