第2話 約束の婚約解消──ではなく破棄?・前編

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「あらあの子は、確か……」 「ヴィオネ伯の養子になった令嬢じゃありません? たしか帝国に留学していたとか?」 「であれば、殿下のお目に掛かることもなかったのだろう」 「なんとも伯爵家が羨ましいことだ」  ああ、異世界転移だと後ろ盾がないので伯爵家の養子になったんだっけ。  ざわつくなか、エルガルド様の隣に並び立つ。 「彼女はユリア・ヴィオネ伯爵令嬢。私の運命の相手であり、番だ」  拍手喝采の中、セレナーデは壇上の下で二人を眺めていた。  長かったわ。八歳の頃から王宮で王妃教育と、財務関係を含む政務処理の毎日。この場で婚約解消を行い、王宮を出るだけ。あと数ヵ月先だと思っていたから、それだけは嬉しいかも。  ふと脳裏に幼い頃のルーファ……ルシュファの姿を思い出す。あれから八年以上、会っていないけれど元気かしら? 確か武勲を上げて将軍になって、二年前に黒竜のねぐらフォルトナ要塞の奪還をしているとか。数年がかりで均衡状態で大変そうね。 『セレナぁ』  いつも泣きべそをかいて、私の後ろを追いかけてきた幼馴染。  ふふっ、なんだか懐かしいわ。  ルシュファが婚約してからは、なるべく彼とのことを思い出さないようにしていた。それなのに今日に限って感傷的になってしまう。ルシュファが待っているわけない。それに彼はもう、泣き虫な幼馴染でもないわ。最年少で将軍になったのだもの。  私のことなど忘れてしまっている。 「婚約者セレナーデ・マリエル侯爵令嬢。今までユリアの代わりに王妃候補筆頭として、私に尽くしてくれたことを感謝する」  感傷もここまでね。王妃候補筆頭として最後の務めを果たしますか。  一気に注目を浴びる。奇異な目で見られるなどいつものことだと、気にせずにスカートの裾を軽く摘まんで持ち上げつつ頭を下げた。 「殿下、発言してもよろしいでしょうか?」 「もちろんだ」 「ありがとうございます。殿下が番を得たことを心よりお喜び申し上げます」 「ああ」 「それでは──」 「セレナーデ様、今後は私がエルガルド様を幸せにしますわ。今までありがとうございます」  まだ正式な婚約をする前に、侯爵令嬢に伯爵令嬢が声をかけるなんて……。この先が思いやられるわ。それに気付いた貴族たちはざわついたが、静観して見ている。ユリアを無視してエルガルド様に視線を向けた。 「エルガルド様、それでは婚約の()()の宣言をお願い致しますわ」 「──っ!」 「ああ。本日をもってエルガルド・グランニエ・グルーと、セレナーデ・マリエルの婚約()()とする!」 「ん?」
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