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「あらあの子は、確か……」
「ヴィオネ伯の養子になった令嬢じゃありません? たしか帝国に留学していたとか?」
「であれば、殿下のお目に掛かることもなかったのだろう」
「なんとも伯爵家が羨ましいことだ」
ああ、異世界転移だと後ろ盾がないので伯爵家の養子になったんだっけ。
ざわつくなか、エルガルド様の隣に並び立つ。
「彼女はユリア・ヴィオネ伯爵令嬢。私の運命の相手であり、番だ」
拍手喝采の中、セレナーデは壇上の下で二人を眺めていた。
長かったわ。八歳の頃から王宮で王妃教育と、財務関係を含む政務処理の毎日。この場で婚約解消を行い、王宮を出るだけ。あと数ヵ月先だと思っていたから、それだけは嬉しいかも。
ふと脳裏に幼い頃のルーファ……ルシュファの姿を思い出す。あれから八年以上、会っていないけれど元気かしら? 確か武勲を上げて将軍になって、二年前に黒竜のねぐらフォルトナ要塞の奪還をしているとか。数年がかりで均衡状態で大変そうね。
『セレナぁ』
いつも泣きべそをかいて、私の後ろを追いかけてきた幼馴染。
ふふっ、なんだか懐かしいわ。
ルシュファが婚約してからは、なるべく彼とのことを思い出さないようにしていた。それなのに今日に限って感傷的になってしまう。ルシュファが待っているわけない。それに彼はもう、泣き虫な幼馴染でもないわ。最年少で将軍になったのだもの。
私のことなど忘れてしまっている。
「婚約者セレナーデ・マリエル侯爵令嬢。今までユリアの代わりに王妃候補筆頭として、私に尽くしてくれたことを感謝する」
感傷もここまでね。王妃候補筆頭として最後の務めを果たしますか。
一気に注目を浴びる。奇異な目で見られるなどいつものことだと、気にせずにスカートの裾を軽く摘まんで持ち上げつつ頭を下げた。
「殿下、発言してもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ」
「ありがとうございます。殿下が番を得たことを心よりお喜び申し上げます」
「ああ」
「それでは──」
「セレナーデ様、今後は私がエルガルド様を幸せにしますわ。今までありがとうございます」
まだ正式な婚約をする前に、侯爵令嬢に伯爵令嬢が声をかけるなんて……。この先が思いやられるわ。それに気付いた貴族たちはざわついたが、静観して見ている。ユリアを無視してエルガルド様に視線を向けた。
「エルガルド様、それでは婚約の解消の宣言をお願い致しますわ」
「──っ!」
「ああ。本日をもってエルガルド・グランニエ・グルーと、セレナーデ・マリエルの婚約破棄とする!」
「ん?」
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