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リビングのテーブルに頬をつけて、音の無いテレビの画面を眺める。内容はさして面白くないが、手を伸ばしてリモコンを取る気になれず、毛足の長いカーペットを指で撫でる。色と光の刺激が思考を乱してくれればそれで良かった。
日中の蒸し暑さに比べて夜は肌寒い。温かい腕の中から抜け出してきたのを少し後悔したが、あのまま暗闇で長いこと起きているのも良くない気がした。
色々と言うにはあり過ぎるほどの紆余曲折があって、何がどうして屋根をひとつに暮らしているのか、まだ上手く説明できない。起こったことは理解しているのに、追い付かない感情が時折息継ぎを求め、2人の寝室に立派なベッドがあってもリビングのソファベッドが必要になる。
孤独が寂しいと泣いて、偽物の温もりを代用にした。色々なものを失って、傷付けて、やっと辿り着いた場所だ。それがどうして、こんなにも不安を煽られるのか分からない。なんて面倒臭い奴なんだと自分でも呆れる。
それなのに、
「寝れなかった?」
なんでこいつは許してくれるんだろう。そんな風に優しく触れてくれるんだろう。
喉が詰まって上手く声にならず、ハチの腕を掴んだ手が冷たかった。
「こっちくるなら、ちゃんと布団持ってこなきゃ」
しゃがみ込んだハチの体温が近い。柔らかな布団越しに、包み込むように腕を回される。もう画面の光も感じないのに、余計なことを考える隙間がなくなる。
「…よく付き合えるね」
「好きだからね」
「こんな振り回されて」
「そこが可愛いんだよね、不思議と」
最後に付け加えられた一言が彼らしい。感情にひとつひとつ解説が必要な自分とは違う。
腕の中で、もぞりと向きを変えた。布団巻きから出た鼻先に、柔軟剤と嗅ぎなれた匂いが混ざり合う。
「ハチ」
「うん?」
「…謙信」
「うん」
「こっちで、一緒に寝て」
「いいよ」
あっさり承諾され、どうしてだか泣きそうになる。幸せだと涙が出るなんて、可笑しな体になってしまった。
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