第1話 元悪役令嬢は招かれる

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第1話 元悪役令嬢は招かれる

「本日をもってシルヴィア・ローレンとの婚約を破棄する!」  それは絢爛豪華なパーティー会場で起こった一幕。  滑らかで美しい音楽がピタリと止まり、華やかな空気から張り詰めた空気が会場を覆う。  金髪碧眼の美男子(王子)と、ピンクのふわふわな髪の可愛らしい女の子(ヒロイン)。  よくあるゲームの架橋で、悪役令嬢が断罪される手垢がついた王道パターン。不運にも悪役令嬢に転生したシルヴィはついに、この日が来たと身構えた。  シルヴィ・ローランは、幼少の頃から王子フィリップ・エル・シャトレの婚約者候補筆頭とされ、十八歳を迎える年に正式に婚約者となる間際で、その頃には王子は婚約者候補でない学院で出会った少女と恋に落ちていた。シルヴィが王妃になるため努力する間、馬鹿王子とヒロインの少女は学院生活を謳歌していたのだから、百年の恋も冷めるだろう。  だが王族との結婚は政治だ。惚れたという理由だけで覆されることはない、本来なら。けれどヒロインはこの国を守護する《女神たちの乙女》というアドバンテージを持っていたため、今度はシルヴィの婚約を解消する必要が出てきてしまう。  結果、公爵令嬢であったシルヴィを貶めるため、また公爵家の勢いを削るために『ヒロインであるリナ・ドラージュに嫌がらせをする悪女』と王侯貴族によって捏造された。乙女ゲームではヒロインサイドで政治的なことに巻き込まれるので気付かなかった。また王子ルートでなければ、シルヴィは王子とそのまま結婚するのだ。  あくまでも攻略キャラの分岐点によってラスボス、断罪者が異なる。  王子との婚約破棄もそうだが、ヒロインと出会わないという選択肢も最初から剥奪されていた。悪役令嬢は断罪されるパターンまでは、シナリオの強制力なのか抗えなかったので、シルヴィは婚約破棄後の展開に賭けた。 (ここでラスボスらしく禁忌の魔導具を使って敵対するか、罪を認めて婚約破棄を選ぶかの二択は、私が決めることができる。魔導具は早々に破棄したし、実質一択だけれど!)  この二択によって、シルヴィの結末は大きく分かれる。だからこそ罪を認めて、国外追放からの冒険者ライフを楽しむため研鑽を積み、自分にできることをした上でこの場に臨んでいた。  公爵家からは早々に娘一人を斬り捨てる方向に進んだ。あの両親ならそうだろうと、シルヴィはあまり驚きもしなかった。それもシナリオ通りだったからもあるかもしれない。  誰一人味方のいない中で、毅然と佇む。
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