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第5話 再会──合い言葉を覚えていますか?
第三者の声にシルヴィアが振り返る、と見知らぬ聖職者が佇んでいた。
(……誰!?)
鳶色の短い髪に、切れ長の眼野色はヴィオレ色で、目鼻立ちがと整った美しい男だ。黒の司祭服の上にカズラを羽織っていて、見るからに上質な布を使っており、金の刺繍には柊と幾何学模様が施されていた。
聖職者でありつつも、どうも淫蕩な雰囲気がある。外見は二十代とかなり若いが、その佇まいと雰囲気からして、恐らく人外ではないのだろう。
そう判断したのは、シルヴィアが眼前の男の雰囲気に、見覚えがあったからだ。髪の色や外見はやや異なるが、目の色は同じだったのですぐに分かった。
(ラフェド。あの人と同じ瞳の色……。でも、たぶん……)
フォルトゥナ聖王国は鎖国状態なので、他種族と関わる機会はなかったが、対面すると雰囲気が違うのだと実感する。
(――私の知っている彼じゃない)
こちらを値踏みするようなヴィオレ色の瞳には、新しい玩具を見つけたというような、気まぐれな色をしていた。シルヴィアが愛した、春待ちを慈しんだ眼差しではない。
だからこそ、あり日の彼とは別人だとすぐにわかった。
(記憶喪失? ううん、最初からその程度の認識だったのよ。異世界で出会った程度の認識なんだわ。十八年も前だもの。覚えていない)
あっさりと出会えたことの喜びよりも、自分自身のことを欠片も覚えていなかったことに、少しだけチクリと胸が痛んだ。
ほんの少しだけ。
(例え転生して、約束をしたとしても、彼は人外で──気まぐれなのだから)
この結末も分かっていたことだと気持ちを切り替えて、シルヴィアは相手を真っ直ぐに見つめ返す。
声が震えないように緊張しながら、最初に出会った時と同じセリフを口にする──はずだった。
けれど口から零れた言葉は、彼との約束の言葉だった。
もし、もう一度、出会ったのなら──。
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