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「……“貴方にとって白と赤の特別なケーキの取り分は?”」
それはずっと前に決めていた、合い言葉。
ヴィオレ色の瞳が僅かに揺らいだ。シルヴィアには、この数秒の時間が数時間のようにも長く感じられた。そしてその結末は、悲しいほどに裏切られる。
「は?」
(あ。……やっぱり、そうよね)
「……初対面で何を言い出すかと思えば、今代の聖女候補は面白いことを言う」
「…………っ」
掠れた声が吐息と共に漏れる。
淡い期待をしていた。もしかしたら──、と。でもそんな奇跡は起こらない。
『そしたら俺は“全部だ、白も赤も涙も未来も全部、俺が奪う”と返すから、ちゃんと確認するんだぞ』
そう笑って毎朝の顔を合わせる度に、あの時の彼は合い言葉の確認をした。異世界転移の影響で髪の色や瞳、姿も変わるかもしれないから、念のためだと。
(……っ、……ラフェド)
この世界では呪いやら、精神干渉、精神汚染などによって、記憶が奪われる、記憶上書きが多々あるという。
それを防ぐための、特別なまじない。
それが作動しなかったと言うことは、彼はどうあってもシルヴィアの知る人物ではないということになる。
(それもラフェドの嘘かもしれないわ。あの人、結構気分やだったもの)
「俺はこのオーリム領教会を預かる、最高責任者のアルベルトだ。お前が聖女候補の一人だな」
(アル……ベルト……。そう名前さえ違うのね……。そして彼は私が聖女だと言うことは──知っている)
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