第5話 再会──合い言葉を覚えていますか?

3/3
前へ
/27ページ
次へ
 聖女候補。  その単語を聞いて、シルヴィアは「ええ」と呟いた。ふう、と息を整えて彼と向き合う。 「そのようです。()()()()()()()()()()。……教会で説明を受けるようにと言われたのは、聞いていますが今回は不慮の事故です。妙な空間に転移してしまった先で、素敵な洋館とドラゴンさんを見つけてしまっただけで、さくっと手に入れてから向かう予定だったのは本当です……よ」 「何で最後で言い淀んだ?」 「向かう予定でした!」 「あくまでも予定という部分は、取り消さないんだな」 「ぐっ……」  シルヴィアは教会に遅れる理由を述べたが、それは承知しているのかさして叱られはしなかった。  ペナルティーでアルベルトが訪れた訳ではないことに、ホッとする。 「それで最高責任者が、どのようなご用件でしょうか?」 「お前以外の聖女候補は、教会に到着している。……まさか初日にこの場所に辿り着き、竜王を殴り飛ばすとはな。中々に愉快だったぞ」  口端を釣り上げたその表情は、聖職者というよりも獰猛な獲物を狙う狩人の瞳に近い。人外の持つ独特な色香と、排他的な雰囲気を纏った彼は、絶対に選んだ職業が違うだろうとシルヴィアは心の中で思った。 (どう考えても聖職者に最も遠い存在に見える。……と言うか、唐突に煙草を吸い始めたのだけれど! 信じられない) 「ふう。……俺の今日の仕事は、聖女候補に説明諸々するまで終わらないんだ。面倒だからここで説明するぞ」 「(不良神父!)それは有り難いですが、あと一刻もあればそちらに向かう予定でしたよ?」 「どうだかな。お前、この洋館に住み着く気だろう」 「…………ナンノコトデショウ?」  やや声が上ずってしまったが、目を逸らさずに答えた。 (けして共同生活が嫌だとか、自由でのびのびライフを考えていたわけではない!)  このアルベルトは見た目以上に、老獪で油断できない相手だとシルヴィアは再認識する。  アルベルトはふう、と紫煙を吐きながら説明を続けた。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加