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聖女候補。
その単語を聞いて、シルヴィアは「ええ」と呟いた。ふう、と息を整えて彼と向き合う。
「そのようです。シルヴィアと申します。……教会で説明を受けるようにと言われたのは、聞いていますが今回は不慮の事故です。妙な空間に転移してしまった先で、素敵な洋館とドラゴンさんを見つけてしまっただけで、さくっと手に入れてから向かう予定だったのは本当です……よ」
「何で最後で言い淀んだ?」
「向かう予定でした!」
「あくまでも予定という部分は、取り消さないんだな」
「ぐっ……」
シルヴィアは教会に遅れる理由を述べたが、それは承知しているのかさして叱られはしなかった。
ペナルティーでアルベルトが訪れた訳ではないことに、ホッとする。
「それで最高責任者が、どのようなご用件でしょうか?」
「お前以外の聖女候補は、教会に到着している。……まさか初日にこの場所に辿り着き、竜王を殴り飛ばすとはな。中々に愉快だったぞ」
口端を釣り上げたその表情は、聖職者というよりも獰猛な獲物を狙う狩人の瞳に近い。人外の持つ独特な色香と、排他的な雰囲気を纏った彼は、絶対に選んだ職業が違うだろうとシルヴィアは心の中で思った。
(どう考えても聖職者に最も遠い存在に見える。……と言うか、唐突に煙草を吸い始めたのだけれど! 信じられない)
「ふう。……俺の今日の仕事は、聖女候補に説明諸々するまで終わらないんだ。面倒だからここで説明するぞ」
「(不良神父!)それは有り難いですが、あと一刻もあればそちらに向かう予定でしたよ?」
「どうだかな。お前、この洋館に住み着く気だろう」
「…………ナンノコトデショウ?」
やや声が上ずってしまったが、目を逸らさずに答えた。
(けして共同生活が嫌だとか、自由でのびのびライフを考えていたわけではない!)
このアルベルトは見た目以上に、老獪で油断できない相手だとシルヴィアは再認識する。
アルベルトはふう、と紫煙を吐きながら説明を続けた。
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