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長い白銀の髪を靡かせ、空色の美しい瞳に、透き通るような肌、少しだけ胸を開けたガーネット色のドレスは、金と銀をちりばめた刺繍が上品に施され、シルヴィアの美をより引き立てる。
ヒロインのリナは朗らかな春のような愛らしさなら、シルヴィは冬至に咲き誇る一輪の薔薇のような美しさだろう。
厳しい冬の寒さにも耐える孤高は、今の状況に近しい。
グッと周囲の悪意に耐えた。
大丈夫だ、とシルヴィアは心の中で叱咤する。
酷い土砂降りの中で、愛する人を残して死んだ前世での最期を思えば耐えられた。
『必ず……見つけ出す……だから指輪は、お前が持っていてくれ……』
転生しても、あの指輪だけはこの世界に持ち込めた。それは……たぶん、人外である彼がいた世界が「ここだ」とシルヴィアは確信していたから。
この世界には魔王がいる。
それが彼の名だと知ったときから、シルヴィアにとっての道しるべとなった。
(乙女ゲームを舞台としたこの国に彼はいなかったからけれど、この世界の何処かにいるはず。何せこの世界の魔を司るらしい人だと言っていたのだから、この国での役目を終えて漸く彼を探しに行ける)
まず向かうとするならオーリムという国だ。知人の商人曰く、魔王と高位の人外が管理しているという特別な場所らしい。
(例え、彼が私との約束を忘れてしまったとしても……、会って彼から貰った指輪と、この身に受けた加護だけは返そう。指輪は彼の魔力から作ったと言っていたのだから……)
ふう、と目を伏せて小さく吐息を零したのち、真っ直ぐに王子を見据えた。
悪役令嬢の役割を脱ぎ捨てるための言葉を告げる。
「婚約破棄の件、承知いたしました」
「父上にも報告済みだ、お前には国外追放を言い渡す」
「かしこまりました」
シルヴィは騒ぎ立てず、「よっしゃ!」とガッツポーズを堪えたまま、淑女の鑑として優雅に一礼する。
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