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(……って、今は呪いの方!)
『物語沿えば、彼は徐々に記憶を取り戻し、君の破滅が近づく。愚かだけれど見ている側は、痛快な一幕となるだろうね。ああ、君が壊れた後の――王の終焉が待ち遠しいよ』
「…………悪趣味ですね」
『ありがとう、最高の褒め言葉だよ。まあ、君が転生したフォルトゥナ聖王国だって、似たようなものじゃないか。何百年も同じ舞台を繰り返す狂気の国。女神たちの箱庭。壊れた舞台で配役に選ばれた君が、別の箱庭で本当の終焉を迎えるなんてね。運命的だと思わないかい?』
(あの国が女神たちの箱庭?)
シルヴィアの中では、乙女ゲームの世界だと認識していたが、この世界側からすれば、狂気に等しい国という認識のようだ。
鎖国しているのは、何度も繰り返す舞台に改変されないためなのだろう。
(であればシルヴィアがどれだけ足掻いても、あの舞台では悪役令嬢という枠から抜け出せなかった……ってことね)
高位の人外、それも複数で作り上げられたのなら、最初から悪役令嬢には勝ち目はなかったのだ。
この十八年間の頑張りは無駄だったが、シルヴィアは絶望しなかった。
絶望するにはまだ早すぎる。
(ああ、でも――かつての私とラフェドとの物語は、ううん。この呪いは、まだ回避できる可能性が残っている)
ほんの僅かな可能性。
ゼロに等しいけれど、悪役令嬢だった頃よりも、ずっと選択肢は多いのだ。
シルヴィアが黙っていたことで、怯えていると受け取った青年は口元を歪めて、さらに心を抉ろうと言葉を紡ぐ。
『ふふっ、彼の記憶を本と言う形で引き剥がしたのは善意からだったのに、あれは本という性質を理解していなかった。物語はいつだって読者を楽しませるものだ』
「……ええ、そうですね。物語ならいつだって読者を楽しませて、心を弾ませるものです。けれど私の紡ぐ物語は、ハッピーエンドの一択だけ、それ以外の結末は認めないわ。全力で滅ぼしてみせましょう」
『……へぇ』
シルヴィアは、眼前の相手を敵だと認識を改める。だからこそ鈍色に煌めく刃の瞳で、魔術師を見つめ返した。
人間、それもか弱き女性と思っていた青年は、僅かにたじろいだが、すぐに口元に笑みを浮かべて開き直る。
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