第7話 早速呪われました

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『強がっているのも今のうちさ。記憶が戻りあの本の通りになって君が死ぬ末路か、あるいは君との記憶が永遠に戻らずに結ばれない終わりをするか』 「……貴方、本を書いたことがないでしょう」 『ん?』 「それとも様々な結末の本を、読んだことがないのでしょうか。……貴方の失点は、この段階でその様な呪いの道筋と、縛りがあると私に教えたことです」  言い返したシルヴィアに対して、青年は道化師のような仕草で声を上げて笑った。滑稽だと言わんばかりの姿に、シルヴィアはムッと眉をつり上げる。  そろそろ実力行使に潰したほうが手っ取り早いのではないだろうかと、苛立ちを募らせていた。 『これだから短絡的な人間は困る。何の策も無くこんなネタバレするわけがない。このやりとりは、この部屋を出た瞬間に忘れてしまう。これはそういうものだ』 「………っ」  シルヴィアの顔色が変わったことで、青年は満足そうに笑った。舞台役者のような大ぶりな一礼をして「これにて閉幕」と告げた刹那、シルヴィアの意識が現実へと引き戻される。  パキン。 「──っ!?」  音と共に数珠に亀裂が入り、真っ黒に染まったそれは灰となって消え去った。シルヴィアは一瞬、酩酊にも近い感覚に陥ったが、すぐさまぐっと唇を噛みしめて堪える。 (ああ……、そういう……)  シルヴィアはあの数珠を身につけておいて本当に良かった、と心から安堵した。敵は愚かではなかったが、爪が甘かったようだ。  特殊な空間あるいは領域においての記憶消去は、有効だったが、シルヴィアは悪役令嬢として断罪される未来を想定して、様々な対策を講じていた。 (虚偽進言判定、記憶喪失除外、精神汚染排除などの要素を詰め込んだ魔導具を身につけておいて良かった……)  それはシルヴィアが転生してから、積み上げてきた成果だ。悪役令嬢という未来は変えられなかったが、それでもその先の未来に向けての選択肢を広げてくれたことに、ホッとした。 (人外の結婚は生涯で一度。昔、人間の感情をより効率よく得ようと重婚やらをして、人間を喰い潰していった魔人がいたから世界の理として上書きしたって、ラフェドが教えてくれたのよね。幸いにも婚約ならノーカンなはず! 指輪をどう返すかだけれど……まあ、その辺は未来の自分に丸投げしよう) 「……なんだ?」  アルベルトは不機嫌そうな声で、シルヴィアを見ていた。その表情に対して、シルヴィアは笑みを貼り付ける。
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