第8話 恋の終わりと新たな一歩

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第8話 恋の終わりと新たな一歩

   覚えてなくとも「出会えたことが嬉しかった」と、告げることはもう出来なくなってしまったが、それでも彼がこれ以上悲しむ未来を防ぐ時間はまだ残っているはずだと、シルヴィアはそう自分に言い聞かせた。 (過去は変わらない……。でも……この先の未来なら……)  シルヴィアは、自分の中に残っていたラフェドへの思いごと、過去と折り合いをつけた。  未練も今の呪いのせいで、木っ端微塵に吹き飛んだのだ。そう考えると、あの呪いが今発動したのも、これはこれで良かったのだろう。  時折芽衣李としての時間は間違いなく、あの時に終わっているのだから。 (転生して記憶が残っていたから、ずっと延長線のように感じていたけれど、これで時折芽衣李を終わらせることができたのは……良かった。そう良かったこと)  あの時の気持ちも、思いも、宝物の一つとして完結した。  それは転生した先が、悪役令嬢という心を抉られる生き方だったのもあるだろう。  その選択肢を選び取ってしまうほど、シルヴィアの心は疲弊しきっていた。  だからこそバッサリと切り捨てたのは、これ以上傷つかないための防衛本能のようなものだ。 「急に黙ってなんなんだ?」 「いえ。………もしかしてアルベルトさんは、その本がここにあると知っていたから、わざわざこちらに出向いたのですか?」 「んな訳あるか。……昔、この手の本を全巻集められるかどうかの賭を──したことを思い出しただけだ」 「……そう、ですか。……それにしても『捻くれ悪魔と異国の少女のアルカナム第一巻』って、可愛らしいタイトルですね。意外です」 「うるさい」  アルベルトは本を着服しそうになったので、シルヴィアは慌てて手を掴んだ。ぐぐっと手に力を込めるが、アルベルトは涼しい顔をしている。
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