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物語はよくある異種族と人間の少女との出会いだ。名前はシルヴィアの前世の――芽衣李でも、ラフェドを彷彿とさせる特徴もない。
それでもこれがなぜ物語という形の本になっているのか、賭をしたというアルベルトの話を聞いて腑に落ちた。
(とりあえず、あの道魔術師は見つけ次第報復をするとして、呪い解除のためにも味方を作らないと。信頼できる関係を気付くのなら、さっきポップアップに出てきた使い魔契約なんかいいかもしれない)
ここでシルヴィアは本探しを含めて、新しい目的が生まれた。
明確にやるべきことが見つかるというのは、これからの生活環境も含めて思案すべきことだったので、この段階で得ることができたのは僥倖だったと自画自賛する。
本をアルベルトに返すと、さっと自身の所有空間にしまったようだ。
そんなことをしなくても奪い返したりはしないのだが、とシルヴィアは顔を僅かに顰めた。
(まあ、呪い解除であの本を燃やせって言うのなら、力尽くで奪い取るけれど!)
「聖女候補としての書類申請書はこれだ。それと聖女候補としての冊子、この国のマップも渡しておく。薄い灰色の街までの転移回廊ぐらいは、明日までには固定させておけ。階層を移動するには、いくつかある転送回廊を使うしかない。また階層への移動方法は条件が揃うことで可能となる」
(仕事自体はキチンと説明してくれるので、上司としてはいいのかも)
アルベルトはリビングのテーブルに、必要な書類を山のように載せた。この国についての資料やらマップなどもしっかりと揃えている。テキパキとした姿を見てお礼をし忘れていたと思い、シルヴィアは慌てて感謝を口にした。
「ありがとうございます」
「それと生活基盤を整えるため仕事は、そうだな……一週間後で構わない。生活が苦しい連中はそうも行かないだろうが、お前の場合はすでに土地と財産があるからな」
「はい」
ふとそこで話が終わるかと思ったのだが、獣のような唸り声によって遮られた。
それは二足歩行の人型の姿をしているものの、蜥蜴のような頭に艶やかな鱗、頭には白く長い角。露草色の瞳、青紫色のたてがみ、手と足は鱗に覆われた竜族は、司祭とは異なるが袖と裾の長い白いローブを羽織っていた。
「人の子……」
(あ、しまった!)
シルヴィアはドラゴンを放置していたことを思い出す。光魔法の拘束時間をすっかり失念していたのだ。魔法を使って浮かれていた自分を呪った。
こんな素敵な家の中での戦闘は避けたい。シルヴィアが考えていたのは、そんなことだった。
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