14人が本棚に入れています
本棚に追加
(これで窮屈な王妃修行や業務ともオサラバ! 彼を探す道中は珍しい幻想動物や植物、竜やグリフィンの生息する他国で冒険者家業をしつつ世界を旅する! せっかく転生して魔法やら魔導具なんて摩訶不思議なものがあるだから、全力で楽しまなきゃ!)
胸の中に残る淡い記憶。
ラフェドという人外との時間。
頬を撫でるゴツゴツした手の感触をシルヴィアは覚えている。ほんの僅かな出会いだったけれど、網膜に焼き付いた、あまりにも目映い夢のような時間。
『いつかお前に俺のいる世界を見せてやる。ドラゴンや花火よりも美しい魔法術式に、宝石のような煌めきと硬度の花が一面咲き誇る場所、白を基調とした国、冒険者がいて、美しくも残酷で何処までも自由な世界。人族だけじゃない神々に魔族、精霊に妖精――、お前の言う夢物語が全部詰まった場所だ。きっと気に入るはずだ』
そう笑った彼が残してくれた言葉。
それらがあったからこそ、孤独な悪役令嬢の役を演じきることができた。
たった一つのことがあれば、人間は生きていける。自分本位で単純な生き物なのだ。
悪役令嬢の退場によって、乙女ゲーム《乞われた花乙女》のシナリオは、エンドロールに向かって動き出す――筈だった。
ちりん、と涼やかな音が響く。
『選択はなした――。彼女こそ最後の聖女候補者にふさわしい』
「――っ!?」
それは何重にも重なった声。
厳かな低い声は、どこか愉快そうな雰囲気があった。
ちりん、ちりん、と鈴の音が重なり、それと同時にシルヴィの足場に白銀の魔法円が浮かび――その直後、シルヴィは転移した。
(は、はあああああああああああ!?)
予想を超えた結末に、シルヴィは心の中で叫んだ。
もっとも声を上げなかったのは、淑女としての矜持だったからだろう。
最初のコメントを投稿しよう!