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ある日、授業終わりに友人の凛からそう声を掛けられる。確かに前迄は誘われたら取り敢えず行っていたが、最近は週に一、二回は彼の店へ空きコマや学校終わりに出向いている為、飲みの話は断っている事が多くなった。気が付けば俺は彼の店の常連となりつつあった。
「授業が終わったらたまに真っ先に帰ってるし。もしかして彼女とか出来た?」
「いや...そういうのじゃない」
彼女...と言われて何故か蛍さんの事が頭に思い浮かんで慌ててかぶりを振る。
「ちょっとご飯の美味しいお店を見つけて...そこに通ってるだけ」
「へぇ...?何も興味持たなさそうな冬馬が意外だな。俺もついて行っていい?」
「いいけど──、....いや」
そこ迄言い掛けて思わず留まってしまった。
きっとこいつを連れて行ったら蛍さんは客として彼を招いて純粋に喜んでくれるだろう。
彼の作るご飯は美味しい。自分の好きなものを誰かに好きだと思って貰えるなら俺も嬉しい。それなのに、思っている事とは裏腹に、彼が自分以外の人に笑い掛けている姿を想像すると何だかモヤッとした。....料理全然関係ないし。
「ごめん、今は教えられない。いつかな」
「ふーん...よっぽど冬馬にとって特別な店なんだな」
特別──
特別なもの程誰かに知られず胸にしまっておきたいこの感情は何なんだろう。こんな風に胸が躍る様な事が今迄あっただろうか。蛍さんと、蛍さんの作る料理と出会えて、最近は日々が楽しく感じる。
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