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prologue
将来やりたい事を探す為に大学に入ったのに自分で自分の生き方が未だに分からない。結局やりたい事も無く、ただ淡々と毎日を無気力に過ごしている気がする。
勉強だけではなく恋愛に関してもだった。いつも外面でしか見て貰えない。顔がいい事には早い段階から気が付いていたけれど、自分の事をまるで鑑賞物の様に眺める相手の視線には嫌気がさしていた。色々付き合ってみたけれど、結局現状は何も変わらなかった。
ここ迄くると、恋愛もこれからの事も、何もかもがどうでもよかった。ただ時間が過ぎ去っていくのを待つだけ....この日迄は確かにそう思っていた。
「はぁ.....」
冬に差し掛かる前の肌寒い夜の日の出来事だった。無理矢理友人に連れて行かれた飲み屋から逃げる様に立ち去り、帰路をのんびり歩いていた。薄暗い道の先に電灯が灯されていて、その下で項垂れる様にして誰かが座り込んでいる。
(は.....?.....人?こんな寒い日に何してるんだか)
思わず呆れた目をして目の前を通り過ぎていく.....予定だったが、このまま何事も無かったかの様に通り過ぎて後々死なれても後味が悪いので一応声を掛けておく。
「大丈夫ですか。救急車呼びますか」
項垂れていたのは歳の近そうな青年だった。眠たそうに目を閉じていたが、自分の問い掛けに突然ぱちっと目を開けた彼は初めて視線を交わらせてきた。ぐわんぐわんと頭を揺らした後、ふにゃっと笑った彼は、直後電池が切れたみたいに再び顔を俯かせてしまう。
(意思疎通は.........出来ないみたいだ)
仕方なく彼をおぶり「住所、教えてくれますか」と再び問い掛けるものの、やはり応答は無い。溜息を吐いてからゆっくりと歩み始める。面倒事だと分かっていながら自ら首を突っ込んでしまったのは、これが初めてだった。
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