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花が咲いていた。
透き通るように青い、矢車菊。心地よい春風が、ひとりぼっちだった私の、ワンピースを揺らす。
こんな快晴なのだから、ひさしぶりに丘陵広場の端まで行こう。きっかけは、腰まである青い海をかきわけ、昇り始めた太陽のほうへ歩いたこと。
弟が輪投げに使う心配はないから、私のためだけに花冠をつくる。そんなはしたない予定だったけれど、世界一の猫に出会えた最高の日になった。
人間みたいに二本足で、花ざかりの春紫苑に埋もれそうに立つ猫は、雲の上を歩いているようで、絵本の登場人物を思わせる雰囲気だった。
しま模様のしっぽを揺らして歩く姿が、お気に入りだったぬいぐるみに見えて、ついつい抱きしめてしまったけれど、それは間違いだったらしい。ばたばたと手の中で暴れる。
地面に降りると、猫は手先を器用に使って毛並みを整えた。背を伸ばす姿がかわいい。
かがんで視線を合わせると、猫は生意気にも目をそらして口を開いた。
「君は花冠が好きだったな」
猫は、話せる理由も、正体も、名前すら教えてはくれない。けれども何度もふざけて、そのたびに自分で笑う猫を見るうち、疑問は幸せの奥に葬られていった。
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