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「お前が事故に遭ったって連絡来た時、本当に血の気が引いた。急いで病院に駆け付けたけど、もう生きてるお前には会えなくて……。なのに次の日、お前は普通に『ただいま~』って帰ってきて……」
冷たい体の日呂を見たはずなのに、帰ってきたお前はいつも通りで。
だけど一つだけ違う所があった。いつも何かを探してる。ありとあらゆるポケットを叩き、鞄を逆さにする。そうして「あれ? どこに……あれ?」と首を一傾げし、俺を見て申し訳なく「ごめん」と微笑んだあと、消える。そして次の日の夕方にまた「ただいま~」と帰ってくる。
日呂の未練は、警察から渡してもらった指輪だろう。きっと日呂はあの日、これを俺に渡すつもりだったんだ。
だからこれを日呂に返してしまえば、きっと彼は成仏してしまう。夕方の一時だけでも日呂と居られてるのに……。
悩みに悩んだ。
同じ事を繰り返すだけの日呂だけど一緒にいたい。
日呂を繰り返しから救い出したい。
葛藤。
だけどいつまでも「ごめん」で終わる日呂に申し訳なくて。だから決心した。
日呂に新しい人生を歩んでもらおうと。
指輪を見た日呂は、泣き笑いのような表情になった。
「もう、森角が持ってたんだね」
「……うん。だけど日呂、これ、嵌めて」
すっと左手を伸ばす。日呂は震える指で指輪を取ると、恭しく俺の手を支え薬指に嵌めてくる。
「……めっちゃ似合ってる。最高の、俺の恋人だよ」
「……ありがとう。俺、森角準太は、日呂優也を愛し抜く事を誓います」
「いや、愛し抜かなくていいよ。違う人と幸せになって」
「嫌だ。お前しかいない」
「だって俺……もう死んでるじゃん」
「生まれ変わってくるまで待ってるって言ったら?」
「あははっ。最高の愛だね。……うん、待っててくれたら嬉しい」
「出会う頃には俺、おじいちゃんになっててもいい?」
「当たり前じゃん。……『ただいま~』って帰ってくるから、『おかえり』って抱き締めてね」
「……分かった」
静かに抱き締め合う。俺の唇に重なる唇が淡く消え始め、涙に濡れた日呂の頬が摺り寄せられる。
「早く出会えるように、星にでも祈っててよ」
「朝晩祈ってるよ」
『愛してる』
二人の言葉が重なると同時、日呂は空気に溶けるように消えた。
ぐい、と涙を拭う俺の左手。その薬指に嵌められた指輪。埋め込まれたダイヤモンドが、きらり、星のように光った。
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