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本当に、翔太はいなくなったのだろうか。確かめたかったけど、私は学校以外では、SNSでしか翔太とつながっていなかった。住所も知らない。家の電話番号も。まだお互いの家を行き来する仲ではなかったのだ。だから、最寄り駅までしかたどり着くことができなかった。今度誰かと付き合う時が来たら、最初に連絡先をちゃんと聞こう。付き合えたらだけど。夕陽に向かって、私はそう誓った。
空しく帰りの電車に揺られながら、私はぼんやりとヘアピンのことを思い出していた。翔太に貸したヘアピンのことを。
「何かおごるよ」
と言われた日。朝から視聴覚室で、ドッキリのようなことをさせられた日。あの日、学校の帰りに、ラーメン屋に二人で行ったのだ。テレビでも紹介されていた、背脂たっぷりラーメンのお店。友だちとは行きづらかったので、翔太がいて初めて役に立ったな、なんて、あの時は軽く思っていた。ばかだな、私。
人気バンドのボーカルに憧れていた翔太は、前髪を絶賛伸ばし中だった。
「ちょっと、いっこ貸してくれない」
と言って、翔太は私のおでこを指さした。三本、重ねづけしていたヘアピンのところ。
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