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一つとって手渡すと、翔太はそれで前髪をまとめて、
「おお、サンキュー」
と、またズルズルとラーメンを食べ始めたのだった。
あ。
そういえばあのヘアピン、返してもらってないな。
ぼんやりとそのことを思い出す。
返してもらえるわけは……ないか。
お気に入りのヘアピンだったのに。
自然とわいたその感情と、涙が、どうしても止まらない。人目もはばからず、私は電車を降りるまで、泣き続けた。
そうだ。
視聴覚室だ。
と、思い出したのは、実に約五十年後のことだった。
まだ繋がりのある同級生たちで、同窓会を開くことになったのだった。懐かしい学び舎に集まって。
白髪になった人。しわしわの人。髪の毛が減った人。ひげをたくわえた人。親しい人であればあるほど、一瞬にして十五歳の少年少女に戻ることができた。どうしても原形が思い出せず、心の目だけでは若返れない人もいたけど。
当たり前だけど、今住んでいるところもバラバラだった。都会の人。田舎暮らしの人。親が死んだ人。子どもがいる人。孫までいる人。
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