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昨日は、私はといえば……大急ぎで期間限定無料配信中の電子書籍を読み漁っていた。まさか、私が一分一秒を惜しんでいたその間に、翔太は一年分の時間を生きていた。そういうことなの?
そんなの信じられない。
「落とし物が落ちてたから置いとこうと思って、中に手を入れたんだ。教卓の引き出しに忘れ物の文房具とかが入ってるの、知ってたから」
「ああ」
「そしたら、手を差し込んだとたん、吸い込まれていったんだよ。しゅううって。そして気がついたら百年後の世界に行ってた。一瞬だった。闇が虹色に輝いたりとか満点の星空の真ん中を駆け抜けるとか、全然そんなことないんだ。パッと目を開けたら別世界だった」
そう話す翔太の目こそが、満点の星空のようだった。場違いなコンタクトレンズをはめてしまったみたいに、らんらんと輝いている。
どう返していいか分からない。その輝き方は、不気味な生き物の背中のようでもあった。まるで悪い病気にでも侵されているかのような。
私は少し怖くなった。
「ふうん。すごいね。本当だとしたらだけど」
「本当だよ」
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