集めた時に浮かんだ顔は

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 先輩には敬語で話し、校内外で会ったら大声であいさつをする。このあたりはまだ分かる。  だけど、1年生は日焼け止めの使用禁止。休憩中でも座ってはならない。水分を摂る時には先輩の許可が必要。このあたりから疑問が生じる。  さらに、朝練のランニングでの変な風習がある。2列縦隊で校庭を走る時、「いっちにーさんしー」と掛け声をかければいいものを、なぜか代わりに英単語を叫ぶ。部長が英単語を発し、あとから続く部員がそのスペルを叫ぶというものだ。「apple」くらいならまだいいけれど、難しい単語がお題として出ると一気にペースが乱れ、みんな黙り込む。そしてなぜか「1年生、声出てない!」と1年生だけ怒鳴られる。  それを他の生徒の登校時間に校庭でやるものだから、恥をかかせるための行為としか思えない。  先輩たち曰く、「伝統だから」というだけの理由でこの風習が残っているらしい。  これについていけず、退部する部員が例年後を絶たないようだ。少数精鋭と言えば聞こえがいいけれど、ただ無駄なところで損をしているような気がする。 「でも、これでもまだいい方かもよ。あたしの従兄が男子校の剣道部なんだけどさ、入部したらまず『メーン』って言う代わりに、好きな女の子の名前を言いながら先輩に100本打ち込むっていう通過儀礼があるらしいよ。それが嫌で入部を諦める人もいるらしいから」  と、由紀乃が休憩中にそんな話を教えてくれた。世の中、色んな風習があるものだ。  コートは1面しかないとはいえ、1年生が2人しかいないと球拾いだけでも一苦労だ。特に前衛練習の時は、拾っても拾っても追いつかない。とにかくこぼれ球がどんどん飛んでくる。  自分たちが練習に入っていると、拾う人がいなくなるため、カゴが空になると一旦中断し、ある程度拾い集めてから再開。全員の練習が終わっても、ボールが全部集まっていなければ次のメニューには進めない。 「ほらっ、早く拾って〜! 時間もったいないよ!」  と、2年生の先輩たちはベンチでゆったり休みながら、悪びれもせずにそう宣う。  だったら少し手伝ってくれてもいいのに! なんて非効率なんだ。 「ねぇ奈緒、うちらの代になったらさぁ、意味分かんないルールは撤廃しようよ。そうしたら新入生も辞めずに残るんじゃない?」  ルールを生真面目に守ってこんがりと日焼けした私たちは、先輩の耳に入らない所でことあるごとにそう話していた。たった2人残った者同士、同じ思いだったことに安堵する。  必然的に、というよりも選択肢なく私と由紀乃はテニスでもペアを組んだ。
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