集めた時に浮かんだ顔は

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 ある日の前衛練習の時。  薄茶色に染まったゴムボールが空高く舞い、緑色のフェンスを越えて飛んで行った。 「あーっ、やっちゃった! ごめんねぇ、1年生〜!」  ボレー練習でミスをした先輩が、申し訳なさそうに叫んだ。  たとえ先輩のミスであっても、取りに行くのは1年生の役目。現状、私と由紀乃とで交代で取りに行くことにしていた。 「次、奈緒の番ね!」 「うん、行ってくる!」  私たちの学校は小高い山の上にある。  校舎のすぐ横が体育館で、テニスコートはさらにその横。校庭はテニスコートから見てフェンスを挟んだ土手の下に位置する。  フェンスを越えたボールは、たいてい土手を転がり落ちて校庭まで行ってしまう。拾いに行くには、一旦コートを出て坂道を下り、校庭まで出向く必要がある。  ボールが転がったあたりまで行くには、野球部やサッカー部が練習している脇を抜けて行くことになるが、そこへ入って行くと、何だ何だと言わんばかりにみんなこっちを見る。混入した異物に集まる視線が居たたまれなくて、変な汗をかきながら取りに行き、毎回逃げるように戻ってくる羽目になるのだ。  私は元々、注目を浴びるのが苦手なたちだ。  授業中も、頭の中で答えは分かっているのにモゴモゴと答えられなくなったりする。リコーダーも練習では上手く吹けるのに、いざテストとなると周囲の目が気になって全然指が動かなかったり、プピーととんでもない音が出たりする。  要するに、あがり症なのだ。人の目があると思うと、必ず失敗する。  秋になって初めて大会に出た時も、想像以上に観客が多く、思うように体が動かなかった。練習してきたことを何一つ発揮できないまま1回戦で負け、ペアを組んだ由紀乃にも悔しい思いをさせた。 「大丈夫だよ、奈緒。次また頑張ろ!」  そんな私を、由紀乃はいつも明るく励ましてくれた。
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