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マッチポイントで、目の前にチャンスボールが来た。
相手ペアは前衛も後衛も転倒し、私の真正面のコートががら空き。相棒の由紀乃がボレーショットで相手のフォーメーションを崩して作ってくれた好機だ。
真っ青な空をバックに、白いゴムボールが大きな放物線を描く。そのボールはこちらのコートに返ってきて、私の守備範囲内でワンバウンドした。ラケットを後ろに引き、フォアハンドの構えが余裕で取れる間合いだ。
あとは左足を前に踏み込み、思い切り振り抜けばいい。しかも、私がもっとも得意とするストレートのコース。
これが決まれば全国大会に行ける。
「奈緒、任せた!」
由紀乃の声がコートに響く。
ソフトテニス部の後輩や顧問、親や友人、観客が一斉に私に注目する。
中学校最後の県大会の決勝戦は、私がこれまでの人生でもっとも多くの視線を集めた瞬間だった。
たくさんの期待を意識しながら、ラケットを振り抜こうとしたその一瞬――
1年生の時に同じクラスだった坂下君の顔が脳裏に蘇った。
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