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自室の扉は、閉めてはいけない。 鍵を掛けるなど以ての外。 もし扉が閉まっていたら、凄まじい足音と共に蝶番が壊れそうな勢いで開け放たれる。 一度、それが厭で内側から鍵を掛けたことがあった。 何時ものように開かない扉に苛立ちは更に高まり、扉が破れそうなほど叩きながら叫ばれた。 何してんの!イヤラシイ!! 鍵を開けるまで、それは続いた。 怖ろしくて視界が色褪せたのを覚えている。 このままでは、ここで生きていけなくなる。 そう観念して、扉を開けた。 その場で正座させられ、小一時間頭の上から突き刺さる怒号に耐えた。 自分が買い与えたモノではない衣服や小物があると、何時、何処で、どの様に手に入れたモノなのかを事細かに尋問された。 自ら買ったモノには、 無駄遣いするな、と叱りつけ、 貰った、等と言えば相手の素性を全て探り出し、 異性であればやはり、 イヤラシイ!と罵倒された。 必要に迫られて下着なぞを買った日には、淫乱扱いをされた。 シフォンの透け感が可愛いと思ってフリーマーケットで買ったスカートも、こんなイヤラシイ服、と取り上げられた。 毛深い家系だったため、体毛はコンプレックスだったが、剃り落とすとやはり、 イヤラシイ!と怒った。 アンタなんか誰も見やしないんだから、そんなイヤラシイことするのはやめなさい、と。 ブラジャーのサイズが自分を越えた時も、イヤラシイ!と言われたが、どうすれば良かったのか判らなかった。 ただ、俯いて、終わるのを待っていた。 これらの記憶は、高校生の時のモノだ。 小学生とかなら、判らなくも無い部分があるにしても、友人は皆、有り得ない、と言っていた。 他人に話したのは、この場所から離れられてからだったが。 其れまでの日常の当たり前が余りにも友人達の認識と懸け離れていたことに、唖然とした。 全てを把握していることを愛情だと思っていたのか 全てを管理することが義務だと思っていたのか 全てを監視しないと気が済まなかったのか それとも。
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