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大学受験を失敗し、予備校、と言うものに通うことになったときは 恥ずかしい、情けない、みっともない、の連呼だった。 恥だ、これ以上繰り返すな、どれだけお金がかかると思っているんだ、勿体ない、他人様に見せられない、と。 私は 唯々、出来損ないの自らを責めて、生きる価値が無い私にお金をかけさせてしまう申し訳なさに身を縮めた。 それまで街中で遊ぶなどしてこなかった、許されなかった私にとって 様々な価値観、様々な目標、様々な年齢、様々な経験を持った人が集まる予備校は全く違う新しい拓けた世界だった。 世の中にはこんなに様々な価値観や服装や好みや生活があるのだと、初めて知った。 あの場所に、帰りたくない と思うようになった。 大きな公園の端から端まで往復で歩き、許容されそうなギリギリの時間まで過ごしてから、あの場所に向かった。 玄関が見えると鼓動が早くなり、口が渇く。 深呼吸をしてから、ドアノブに手を掛ける。 そんな日々が続いた。 日に日に帰りが遅くなる私に、あの人は苛立ちを隠すことはなかった。 今日は何をしてきた、何の講義で何を学んだ、と尋問する。 一緒にいた人の名前、性別、住んでいる処、何処の大学を目指しているのかまで聴き取ろうとする。 其処まで話したくない、と応えると 親に話せないような人間とは金輪際関わるな! と喚き散らす。 話さないもしくは軽い嘘をつくようになるまで、時間はそうかからなかった。
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