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2 袂を分かつ
「アンゼルム! 嘘だろ。君もルターに与すると言うのか? 聖歌は聖歌隊のもの。一般人が教会で歌っていいものではない。神学を学び、理解した音楽家だけが、神の御下で歌えるものなんだぞ!」
アンゼルムと共に教会音楽に関わってきたエトヴィンの怒りは、アンゼルムの考え方を聞いて、怒りを大きくするばかりだった。
残念ながらエトヴィンは身分推奨の権力主義であった。
自分の役職が上だから、人を束ねられる力を持つ。
力を持つから、自分の給金が上がる。
持っている力をみすみす手放すことはない。
「そもそも僕は、聖歌隊に女性を入れるのも反対だ。これまでだって男性修道士が聖歌を歌ってきたじゃないか。どうしてそれでダメなんだ!」
聖歌隊を取りまとめているエトヴィンはイライラと、部屋の中を歩き回った。
「時代なんだ、エトヴィン。神は皆に平等だ」
アンゼルムの言葉を聞くと、エトヴィンはくるりと背を向け、何も言わずに荒々しい靴音を立てて教会から出ていった。
アンゼルムは十数年来の友人であり、教会音楽を支えて来た同志を無くしたと暗い気持ちになった。
しかし、湧き上がる宗教改革への想いは消すことは出来ない。
プロイセン公国ではマルティン・ルターの改革を公式に受け入れ、首都ケーニヒスベルクがプロテスタント文化の中心となった。
プロイセン公国北部に位置するバルト海に面したこの小さな町は、プロテスタント派の町となった。
エトヴィンのような敬虔なカトリック信者は、居づらくなり、次第にカトリック派が多いネーデルラントやボヘミア王国などに移って行った。
聖歌隊の修道士たちは、エトヴィンと共に教会を去った。
残ったアンゼルムは、人々に讃美歌を伝える為の楽譜を作り、人々に教えることが急務となった。
ところが。
プロの聖歌隊と違い、一般人が讃美歌を歌い上げることは難しかった。
まず、声量がない。
そして、一番の問題はオルガンの音色からはずれて、音程が安定しないことであった。
新たな門出と教会に集まった人々は、落胆し、次第に教会に訪れる人の数が目に見えて、減って行った。
「アンゼルム、君が一生懸命教会音楽に向き合っているのは分かるのだけれどね。このままだと教会の運営が立ち行かなくなるね。君を担当から外すかどうか、私も決断せねばならないのだろうね」
教会の牧師にそう告げられると、アンゼルムは唇を噛み締めた。
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