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3 カフェの歌声
教会を出て町をそぞろ歩いていると、どこからか歌声が響いて来た。
アンゼルムは、歌声がする方に吸い寄せられるように足早に歩を進める。
カフェの一角で、バイオリンを弾く男性の傍らで女性が歌っており、客はコーヒーや茶、ビアやワインなどを楽しみながら、男女の音楽を楽しんでいる。
アンゼルムもカフェに入ってコーヒーを注文すると、男女の奏でる音楽に聞き入った。
男性の演奏テクニック、女性の音域の広さ。
アンゼルムはこの二人と話してみたいと思い、コーヒーを飲みながら、二人の演奏が終わるまで待った。
二人の演奏が終わると客から二人にチップが渡される。
男性が帽子にチップを集めた。
アンゼルムの前にやって来た男性にチップを渡しながら、アンゼルムは男性に話したいので時間を貰えないか、と交渉した。
「俺たちに?」
突然アンゼルムに声をかけられた男性は少しだけ警戒する。
アンゼルムは頷いた。
「僕は教会音楽師です。あなたたちにご協力頂けないかと思って」
男性は歌っていた女性を手招きし、アンゼルムは再び二人に話がしたいと懇願した。
アンゼルムの熱意に打たれた二人は、アンゼルムと共に教会に向かい、話しを聞くことにした。
「俺たちも、最近の教会の在り方には疑問を持っていました。献金額が多いほど神の御下に近づける」
カルロと名乗った男性バイオリニストは、怒りを滲ませる。
その腕にそっと手を添えて、心配そうに見上げるのは妹のフィオレだった。
二人は兄妹でイタリアに住んでいたが、音楽家だった両親が亡くなると、宗教改革で紛争の多くなったイタリアを離れ、プロテスタントが多いプロイセンに移ってきたのだと語った。
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