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6 都市部プロテスタント教会にて
カルロの言葉にアンゼルムは軽く衝撃を受けた。
「都市部の大きな教会では、讃美歌の楽譜が揃っていると聞きます。それを借りて、活版印刷で歌集にするのはどうでしょう」
音楽家だった父親の伝手をたどり、歌集を借りることができると言うカルロの手を硬く握ってアンゼルムが頭を下げた。
「抱擁は人々が讃美歌を歌えるようになってからに。とりあえずは都市部のプロテスタント教会に行き、実際の讃美歌を聴いてみましょう」
アンゼルムとカルロは、すぐに都市部へ出かける事にした。
カルロの話しを受けて、都市部の教会音楽家ティルマンが讃美歌の楽譜集を融通してくれた。
「我々はルターの教えに集った同志です。プロテスタントを盛り上げて参りましょう」
楽譜集を受け取り、パラパラとページを捲っていたアンゼルムは次第に見入られるように楽譜を読み込み始めた。
そんなアンゼルムにカルロとティルマンは苦笑いしながら、話し始める。
「君が金にならない教会音楽をやるなんて思わなかったよ、カルロ。親父さんが生きていたら、さぞ喜ぶことだろうよ」
「俺よりフィオレが遣りたがってな。崇高な仕事をするのも、たまにはいいだろ。カフェの音楽活動は続けているから生活に困ってはいないし」
「何より、アレだろ。あの、真っ直ぐそうな奴」
ティルマンが笑って、歌集を真剣に読んでいるアンゼルムを指さした。
カルロはティルマンの言葉に、なぜ自分がアンゼルムの話しを聞こうと思ったのか、考えた。
自分に話しかけて来たアンゼルムの真っ直ぐな瞳。
仕事を受けると言った時の熱い抱擁。
朗らかな笑い声。
思い返せば、アンゼルムはいつだって素直だ。
「あぁ。どうしようもなく真っ直ぐで、熱い奴だ。教会関係者だと思えないくらいにな」
きっと自分はアンゼルムが人として好きなんだ、そう思いながらカルロが答えると、ティルマンは更に笑った。
「今の教会関係者には、そんな奴が必要なのさ」
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