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7 活版印刷まで
都市部から戻ったカルロとアンゼルムは、早速フィオレと共に歌集のドイツ語訳について話し合った。
「難しい言葉を使っても、人々に伝わらなければ意味がない」
「目的は子供でも歌える歌詞」
「子供は物覚えが早いから、子供が讃美歌を覚えて歌えば家族に伝わるだろう」
「音程を確認するのに、楽譜と歌詞が一緒になっている楽譜もいいが、慣れてきたら歌詞だけ見ればいいように、楽譜とは別に歌詞だけ集めたページを作るのはどうだろう」
「礼拝時に直ぐに開けるように、讃美歌に番号を付番したらどうでしょう?」
三人は夜が更けても尚、真摯に話し合った。
三人の考えが纏まるまでに二日を要した。
フィオレは、話し合った内容を書き込んで行く。
印刷できる歌集の下地ができるまで、更に三日が過ぎた。
活版印刷の依頼も終わり、仕上がりを待っていた頃、教会牧師のヨハンがアンゼルムを訪ねて来た。
「決して君だけのせいではないと思っているが、讃美歌を人々に広めるという状況は、決して良くなっていないね。このままでは私は、君を解雇と言わざるを得ないよ。慈善事業とは言え、教会の運営は献金で保っているものだからね」
「ヨハン牧師、お願いです。どうか自分の処分は、次の日曜日の礼拝まで待って貰えないでしょうか。 自分の私利のためではなく、人々に讃美歌を広めたいのです。その布石はもう打ってあるのです」
アンゼルムの願いに、ヨハン牧師は「ふむ」と頷いた。
「君が私利私欲のために動く人間でないことは私も知っている。そして今は一人でも仲間が欲しいときでもある。待とう。君の働きに期待している。アンゼルム」
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