9 礼拝の日

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9 礼拝の日

 教会の鐘の音が街中に鳴り響く。  日曜日。  人々は礼拝のために、教会に赴く。  ちょっと考えてやめようかな、と考える人々もいた。  グダグダな讃美歌。  何をどう歌えばいいのかも分からない。  そもそもラテン語では、歌詞の意味すら掴めない。  音程も取れない讃美歌で神は赦してくれるのだろうか。そんな疑問も湧き上がる。  ノロノロと礼拝に向かう人の数は、少ない。  満席どころか半分にも満たないだろう。  フィオレはアンゼルムに教会の扉は閉めないようにお願いした。  カルロは礼拝に来た人々に家族ごとに一冊、讃美歌の歌集を配布した。  人々は製本された讃美歌集を手にして嬉しそうにページを繰った。 「礼拝をすると讃美歌集が貰える」  話し声は、街中に広まった。  無料で貰える歌集?  何がなんだか分からない者も、とりあえず教会へ行ってみようか、と一家族、もう一家族とやって来た。    カルロと参列者の話しによって教会席の半分くらいは埋まったようだ。  ヨハン牧師とアンゼルムが、讃美歌について礼拝者に説明する。  ページを繰った人々は、歌詞が分かりやすい母国語で書いてある事に驚いた。 「こりゃあ、良い!」  礼拝所である事を忘れて大きな声を出してしまった御老人は、一緒に来ていた奥方に腕を引っ張られた。 「あなた!」  ひそひそと人々が歌集について話すざわめきが、礼拝所に広がる。  ヨハン牧師が歌集の番号を読み上げると、人々はシンと静まり返った。  アンゼルムがオルガンを弾き、扉の入り口近くにいたフィオレとカルロが歌いだした。  声量がある二人の歌声は重なりあい、礼拝所に響き渡る。  そして、開いた扉から街へ歌声が流れ出た。  優しく、美しい讃美歌に人々は足を止めた。  そして、一人、また一人と礼拝所にやって来た。  教会の入り口に置いてある歌集を手に取り、人々はフィオレとカルロの讃美歌に聞き惚れた。  繰り返し、同じ曲を歌うと旋律を覚えた人々も、歌い始める。  礼拝所に、街に。  讃美歌が美しく響き渡っていた。
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