深夜26時、逢瀬を重ねる

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バツが悪そうに視線を逸らした彼は、そっと私の髪を撫でると…何も言わずに左手の薬指に触れる 「俺の帰る場所なんて、お前のところ以外ある訳ねぇだろ。無駄にデカい実家の屋敷と、出資してる店が何店舗かあるだけで…俺が帰りたいと思うのはお前が居るこの場所だけ」 「……ほんとかな」 「毎日ここへ帰るのは、正直難しい。けど出来るだけ顔を出せるように手は尽くす…それで我慢出来るか?」 なんて言われると、もう何も言えないよ。 手を尽くしてまで会いに来て欲しいとは言わない。だけど本音を言えば、無理をしてでも…会いに来て欲しい。 「いい子で…待てしてます。」 「ん、紬葵は俺の婚約者だもんな?俺を待つ権利は現状お前しか持ってねぇから……安心しろ」 婚約者……それは私を安心させてくれる魔法の言葉。だけど、本当は気付いてる。 その言葉を口にする度に彼はいつも少し切なそうな表情を浮かべていることに…気づいているけど、知らないフリをする。 明け方、私を起こさないように…と気遣いながら静かに寝室を出ていく彼は、部屋を出る前に必ず同じように嵌められている左手薬指に光るシルバーのリングを外してから出ていく。 それが何を意味するのか、怖くて尋ねることなんて出来ないけど…おそらく彼自身、結婚のタイミングを模索しているところなのだろう。 若頭になったばかりの彼が背負う重圧なんて、私には到底理解し難いものだが…きっと簡単に身を固めたり出来るものではないのだろう、っと…納得できるような理由を自分なりに考えて、やり過ごす日々を過ごしていた。
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