深夜26時、逢瀬を重ねる

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バイク事故で運ばれてきたというこの多岐川という男性。脚と腕を骨折していて入浴許可がまだ降りていないので…… 清拭といって患者の身体をタオルで拭くという看護を行う必要があるのだが、どうもこの多岐川という男は”普通”ではない感じが否めないのだ。 っというのも……バイク事故で出来たとは思えないような古い傷のようなものが背中や腹部に多数残っている。 それも擦り傷で残ったものと言うより…刺傷。何かが刺さった、もしくは”刺された”ような傷跡が無数に存在するのだ。 最初に担当した看護師がそれを見つけて以来、彼は”そっち系の人”と噂され…皆が関わるのを避けたいと思うような訳あり患者だった。 それだけならまだ害は無いのだが…彼はとんでもなくワガママで、食事をひっくり返しては看護師を怒鳴りつけ…くだらない雑用でコールを押して呼び出すような問題児。 その為、担当についた看護師はすぐに降りたいと師長に泣きつく光景はこの数週間で何度も目撃してきた。 「……長谷川さん、お願い出来ますか?」 正直、”そっち系の人”と日々逢瀬を重ねている私は多岐川さんの傷跡を見たところで怯むことはない自信はあるが… 別の意味で、関わりたくないという理由がある。
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