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すると、すぐに舌打ちが聞こえてきて─…
「あのさぁ…いい加減慣れろよ。お前…俺と結婚するんじゃなかった?」
結婚、というワードをチラつかせる彼に私は毎度期待してしまう訳なのだが…いつ頃、とか…どのくらい経てば、とか…そういう言葉をくれることは無い。
「そんなウブな反応してるうちはまだ婚約者止まりだな?あー…残念だな、俺は一刻も早くミリ単位の隔たりも全て放棄して…お前とひとつになりたいのに。」
……彼の言う”ミリ単位の隔たり”というものは、少しも離れたくない…なんて距離感を表す可愛らしい意味合いの物ではなくて。
身体を重ねる際に要する、避妊具のことを指している。つまり、ソレ無しで私とひとつになりたいと…ただの下ネタをオシャレに言い換えているだけなのだが…そんな匠の話術に私は毎度落とされている。
「いつまでも色気を放ち続けている新次郎さんにも問題があると思います。他の女性が寄ってこないか心配で眠れません、毎日寝不足になりそうです」
「あー…そういうこと。昨日俺が帰って来なかったこと、怒ってんだ?嫉妬?ヤキモチ?かわいーな…全く」
そう、昨夜…彼はこの家に姿を見せることは無かった。と言ってもそんなことはよくある話で、毎日帰ってくると限ってはいない。
それも…以前と同じ、私たちの関係は名ばかりの”婚約者”というものに位置づけられただけで…身体を重ねて借金を返済していたあの頃と、何ひとつとして変わってはいなかった。
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