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小夜時雨
その日から採菊は、柳橋のもとへ通うようになった。
歌舞伎の台本やら落語の台本やらをひたすら書くのに苦労したが、自分の文才を認めてくれる人達がいるので不安に苛まれるということは特に無かった。
こうすれば上手く書けますよ、と柳橋は採菊に奨めてくれた。
採菊が筆を動かすたびに柳橋は優しい笑みを浮かべる。
「採菊さんの筆の動きは実に素晴らしいです。色欲をそそられます」
その言葉の意味がなんとなく理解出来た。
柳橋は自分と肉体的な関係を求めてるのだと……。
(厭だ……)
採菊は恐怖感を覚える。この場から逃れたいとひたすら思った。
柳橋は褥の上で採菊を寝かせながら、独り言のように語る。
「私は貴女に惹かれました。可愛らしい貴女に」
柳橋は採菊の前髪に触れながら、彼女の着物の裾を捲り上げる。
少女の白くて細い脚があらわになる。
「あっ…………」
「どうしますか?」
柳橋は採菊の細い脚を持ち上げる。
「厭です……。柳橋様」
「承知しました。すいません……」
柳橋は採菊の脚から手を離す。
(ふう、どうにか逃れられた………)
採菊は安堵感に浸る。
肉体的な関係はまだ持ちたくないと思った。
採菊の素足の裏に触れる柳橋。
「私はいつでも待ってますよ、採菊さん」
採菊は何も応えなかった。
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